これからの30年はITテクノロジーの応用化の時代となる。中心となるのは現在30歳の人々、従業員数が30人以下の企業、これらが次の世界を良くしていく。30年、30歳、30人以下の企業。これがキーワードだ。 ジャック・マー
今年(2017年)初頭にスイスのダヴォスで開催されたWorld Economic Forum 2017 に出演したアリババのCEO ジャック・マーの動画が興味深かったのでそれのご紹介&簡単な要約です。
司会者: トランプ大統領との会談はどんな感じでしたか?
ジャック・マー(以下JM): 「アメリカの中西部の農作物をアリババのサービスで中国市場で売る話をした。彼は大いにオープンマインドな態度で熱心に私の話を聴いていたよ」
司会者: 中国がアメリカから職を奪っている、と指摘されていますが。
JM: 「30年前、僕がビジネスを学び始めたとき、グローバリゼーションによるアウトソーシングは素晴らしいアイディアと言われていた。
「The World is Flat」(T・フリードマン著)という本も読んだよ。
製造業やサービス等のローエンドは中国やインドに任せ、IT、テクノロジー、ブランドをアメリカが担うというものだ。アメリカの企業はそれを実行し、結果はトップ100社の企業群に莫大な利益をもたらした。
問題はそこで稼いだ莫大な金の行き先だ。
アメリカはその30年間に13もの戦争を起こした。そこでは$14.2 trillion(1400兆円)の金を使っている。
儲けた金のほとんどがウォールストリートへ行ってしまった。
そして2008年の金融危機では$19.2tril.の金が消え、34mil.の職が失われた。
もしそれが一部でもアメリカ国内のインフラや労働者のために使われていたなら、現在は全く違う世の中になっていた筈だ。
グローバリゼーションはInclusiveであるべきだ。
“Globalization is great stuff, but should be incluisive”
(ここで用いられているinclusiveの意は、現在進行中のグローバリゼーションが、大資本や大金融のみではなく、小さなビジネスや個人にも恩恵が授けられるような包括的なものであるべき、という意)
そこで稼いだお金は自国の国民のために使うべきだ。
アメリカの問題は、稼いだ富を正しく配分していない部分にあるんだよ。
司会者: アマゾンとアリババのビジネスモデルをどう評価しますか?
JM: 「 どっちのモデルも正しいと思いたい。じゃなければ世の中つまらないだろう?
アマゾンは『帝国』だ。売買の全て、在庫管理やロジスティックスまで全て自分たちで賄っている。
僕たちはデータ・カンパニーだ。そしてEco Systemのようなものだ。
僕たちはEWTP(Electric World Trade Platform)と呼ぶシステムを推進している。
全ての人々や組織、特に以前は資本市場から相手にされなかったようなスモール・ビジネスや個人を応援(Empower)しているんだ。
司会者: 海賊商品が横行するアリババへの批判とクレジット・システムに関して。
JM: 「海賊商品問題とは、人々の持つ欲望との戦いだ。ビッグデータで追跡して『Bad Guys』を探し出し、逮捕等の協力もしている。
詐欺の手口を研究してそれをコンピューターに学習させていた。
今ではそれがAIと世の中で呼ばれるものになっているが、僕たちはそんな名称が登場する以前からそういうことを始めていたんだ。
同様に、ビッグデータを駆使したSesame Creditという評価システムで、取引に携わる個人の信用評価ができるようにしている。今ではこれが個人の社会的信用を計る尺度として広く認識されるまでになっている。
笑い話のようだけど、娘のデート相手の素性を見たり、家を借りる際、借り手の信用度合いを見るために人々がアリババのセサミ・クレジットを見て確認しているんだよ。
司会者:ハリウッド進出に関して
JM: 「幸福と健康(Happiness & Health)という2つのH路線さ。
今日、金持ちも貧乏人も人々は皆ハッピーじゃないように僕には見えるんだ。だからエンターテインメントでハッピーにしたい。それに中国のヒーローはみな最後に死んじゃうんだよ。ハリウッドのヒーローは絶対に死なないだろう? 僕も死なないヒーローの方が好きなんだ(笑)。
観客からの質問1: 「米中貿易戦争」に関して。
JM: 「戦争を始めるのはとても簡単なことなんだ。でも戦争を終わらせるのがどんなに大変なのかは歴史が証明している。貿易で人々は価値や文化を交換しながら相手を理解する。貿易が止まった瞬間に戦争が始まる。だからこそ貿易は大事なんだ」
「仮に、アリババを潰せば米中戦争を阻止のに役立つ、なんて事態になったとしたら、僕は喜んで会社を潰す」
観客からの質問2: ビッグデータを悪用し、それを司る独裁者ような存在にならない自信はありますか?
JM: 「未来のことは誰にもわからない。明日、僕がおかしくならないという保証はできない。だから僕は早くこの職を辞して次の人生に移りたい。僕は仕事をするためにこの世に生まれたわけじゃない。人生を楽しみたいんだ。教職にも戻りたいし、また学校にも行きたい。オフイスで死ぬのではなく、どうせならビーチで死にたいね(笑)」
ジャック・マーからのひと言
JM: 「最後にひとだけ言いいでしょうか? ここに集まった皆さん、そして各国の政府に伝えておきたい事があります。30年、30歳、30人以下の従業員の会社。この3つに注目しておいて欲しい。
テクノロジーが世の中の隅々にまで浸透するのには50年かかる。最初の20年はテクノロジー自体をメインとした会社の隆興する時代だ。FB、e-bay、Google、Amazon、Alibaba、そんな会社たちがそうだ。それはもう放っておこう。これからはその先の30年間に注目してほしい。テクノロジーの応用が重要な分野になるからだ。
それを担うのが現在30歳の人たちだ。彼らはインターネット世代。そしてそんな人たちの興す従業員30人以下の会社に注目して欲しい。世の中をもっと良くする可能性がそこにある。