テスラがEV車で成功した理由(後編)ー Marc Tarpenning

クルマは自己の価値観を表明するためのツールなんだ。

Marc Tarpenning – テスラ共同創業者

 

 

前編では、テスラ設立の理由が現代の諸問題の解決が目的であり、それらの筆頭が脱・石油にあったことと、その解決手段がEVの生産であったことが解説されていました。

今回の後編では、EVのマーケティングを成功に導いたインサイトがどのようにして導き出されたのかを解説します。

 

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マーケティング戦略を構築する上で彼らが最初に設けた問は;

EVを買う人など存在するのだろうか?
  • どのような人がEVを買っているのか?
  • なぜ買うのか?
  • り良いものに移行する可能性があるのだろうか?

 

 

市場機会
  • 米国内では毎年約1,700万台ものクルマが販売されている
  • ニッチなスポーツ・カー市場ですら$30億ドルの市場規模を有する
  • 2003年度のEV販売数はゼロ!

 

マーク:「アメリカ国内では年間に1,700万台ものクルマが売れている。その中で僕らが起業した分野の2シーターの高級スポーツカーの市場規模は$30億ドルもあるんだ。言っておくけどポルシェの安いヤツとかを含まない数字でだよ。みんなクルマを買うのが好きなんだ。ここに大きな市場機会が存在しているのは判っていた」

「そして、この領域にはEVが1台も存在していない–ゼロだった(2003年当時)。少なくとも米政府の発表した統計では全く発見することができなかった」

「では2003年当時、なぜEVは市場を獲得できていなかったのか?」

2003年当時に発売されていた各種EV

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マーク:「なぜこれらのEVは売れなかったのだろう?」(笑い声とともに観客から「ゴルフカートみたいでカッコ悪いから!」と言う声があがります)

マーク:「そう、とってもカッコ悪い」

「それともうひとつ、EVはコスト効率が大変良いので、すべてが経費を節約する目的の省エネ・カーとして、最もローエンドな市場をターゲットにしていたんだ。胸がワクワクするようなモノじゃなかったんだ。決して人々が欲しくなるようなクルマじゃなかった、という事さ

「僕らが投資家(VC)相手にテスラの起業アイディアをプレゼンしていた当時、彼らは決まって『で、この車はどのくらい乗るとモトが取れるのか?』と質問してきました。でもね、連中はみんな高額な特注のポルシェとかに乗っているんだよ。そこで僕が『じゃぁ、あなたのクルマはいつモトが取れるんですか?』と訊き返すと『いや、モト取ろうなんて思って乗ってるんじゃない。これはそう言ったものとは違うんだ』とか言うんだ。僕らの目指していたのも同じ世界なのに分かちゃない連中だよね!(笑)」

 

 

他のEVはどうなったのか?

マーク: 「テスラ以前にもEVは存在していた。主にカリフォルニアがその生息場所だった。理由はゼロ・エミッション義務という規制が施行され、カリフォルニア州で販売する全ての自動車会社はEVを生産する義務を負わされていたからなんだ」

「どれも実際には使い物にならないような代物ばかりだったけど、トヨタのRAV4とGMのEV-1だけは例外だった」

 

本来であれば、この時点で自動車会社は将来に向けて素晴らしいEVの開発と生産・販売が可能だったはずなのに、実際に彼らがやったのは議会に圧力をかけてゼロ・エミッション法案を廃止に至らせました。

すると文字通り一週間後には全ての自動車会社がEVの生産を中止してしまいました。

でも、その中の2車種、RAV4とEV-1には熱烈な顧客が存在していたのです。当時、両車種はリースのみで販売はされていませんでした。RAV4の熱烈なユーザーグループは自分たちのリース車両の購入をトヨタに懇願しました。

米国トヨタは彼らの願いを聞き入れ、将来的にサポートが不可能になることを顧客が了承することを条件に、希望者にはEV-RAV4を販売したのです。

スクラップとなったEV-1

ところがGMは−これはとても有名な話ですが−同じような顧客の願いを却下し、EV-1の熱烈なユーザーグループからの訴訟をも退けて強制的にクルマを撤収してスクラップにしてしまいました。

マーク: 「顧客が愛してやまない自社製品を、強制的に取り上げて目の前でスクラップにする企業が存在するなんて信じられないよね!(会場からは笑い声)それがGMなんだよ」

「覚えてるだろう?金融危機に際して1社は倒産し、もう1社は倒産しなかった。理由が明白だね(笑)」

「でも、この事例から僕らは色々なことが学べたんだ!」

「GMにとって長期的にEV-1の生産を継続するだけの十分な顧客数はとうとう達成できず、それが生産中止の理由だ(ワシントン・ポストに掲載されたGMのスポークマンの声明 2005年)」 ”要はEV-1は技術オタクと環境保護主義者にしかアピールできなかった”

マーク:「僕もマーティンもこのワシントン・ポストの記事を読んで怯んだよ。だって僕ら自身が、それこそ環境保護主義者の技術オタクだったからね(Tree Huggers and Geeks)。EVなんて僕らのような少数層にしか受け入れられないんじゃないか?って危惧したよ」

「だからこそ、自動車市場のどこにDisruptionのチャンスがあるかを綿密に探る必要があったんだ」

 

長年の熾烈な競争を勝ち抜き、切磋琢磨を重ねた自動車産業は高度に効率化が進んでいました。そんな業界でチャンスを掴むためには並外れて斬新なものがなくては不可能です。

ヒントは以下の事実にありました。

 

顧客層の意識は変化している。 彼らは経費節約を目的としてEVを選んでいる訳ではなかった!
顧客の意識は変化している
  • EV-1の顧客層の平均年収は$25万ドル以上(約2,700万円)
  • プリウスは、より上位車種のレクサスからの乗り換え層が多く見受けられた
  • 当時のガソリン価格は$1.50/Gal(リッター50円以下!)という低さ → 燃費の節約が目的ではないのは明白!

マーク:「EV-1の顧客層を調べて見ると、彼らは米国で最も高級車が数多く売れているカリフォルニア州の中でも上位の富裕層だった。住所を見るとベルエア、マリブなどの高級住宅地ばかり。小銭を惜しんで節約に励むような階層でないのは明らかだった」

「その2年程前にプリウスが発売されていた。トヨタはエコ・プラットフォームと呼ばれる最廉価版の車体を使ってプリウスを開発したんだ。カリフォルニアでプリウスが発売された途端、プリウスはレクサスの市場を奪ってしまった。これはトヨタにとっても計算外だったはずだ。思惑とは異なり、この階層の人々がプリウスに買い換えた理由は節約ではなかったんだよ」

「彼らはガソリン代より多くの金をスターバックスのラテに費やし、レクサスからプリウスに乗り換えるような人々だ。ほら、パロアルトの駐車場ではポルシェ、プリウス、ポルシェ、プリウスと、まるで交互に並んでいるような状況だったのを覚えているよね?(笑)」

 

クルマは自己の価値観を表すためのツール

人々がクルマ(高価なスポーツカーやEV)を選ぶ理由
  • 価値観の表明
  • 正しい行為の表明
  • 運転を楽しむため
  • 節約は目的ではない

マーク:「最高速度が何100キロも出せるフェラーリだろうがシリコン・バレー界隈ではせいぜい50マイル、良くても80マイルで走ることができればラッキーだろう?いくら高性能車だからって目的地に速く到着できる訳ではない。どんなクルマもみな同じ場所に向かい、みな同じ速度で走る。わざわざ高価なクルマを選ぶ理由は単純な機能価値の他に存在するのは明白だ」

「実は人々が高価なスポーツカーやプリウスを選ぶ理由は、自己の価値観を表すためだ

「フェラーリに乗るような華やかな人、ボルボに乗る堅実な人、というイメージに皆んな金を払っているんだ。プリウスを選ぶ理由は、環境を大事にする善行というものを表明している」

「それにもうひとつ、スポーツカーを選ぶ理由は、運転自体を楽しむため!」

 

長年、多くのEVが市場で成功できなかった理由は「EV=節約」の呪縛から逃れられなかったマーケティングの失敗にあったのです。

彼らが発見したインサイト、それは自己表現と運転の楽しみこそが人々がクルマに求める価値である、ということでした。

 

バッテリーの技術革新
リチュウム・イオン・バッテリーの技術革新とともにEVの実用化が現実化した。

歴史ある自動車産業ですが、EVが長年成功できなかった理由のひとつにバッテリー性能の限界というものがあったました。

ところがデジカメやPCの普及とともに家電用の汎用バッテリーの技術革新が進みました。

マーク:「僕もマーティンも家電製品の開発の経験があった(電子書籍の開発)。そのおかげでリチュウム・イオン・バッテリーの将来性に早くから目を向けることができたんだ。ムーアの法則とまでは行かなかったけど、毎年8%〜10%の進化を遂げていたんだ。低価格化と高性能化はどんどん進んでいた」

 

18650型Li-ionバッテリー
18650型汎用バッテリーの大量使用
  • Li-ion唯一の汎用バッテリーであった
  • 複数企業によって大量に生産されていた
  • 1台の車で数千個を使用
  • テスラはバッテリーの大量購入者として優位な購入条件を獲得できる

マーク:「18650型のリチュウム・イオン・バッテリーの存在は以前から知っていた。全てのラップトップPCやビデオカメラに使われていたんだ。僕らはこれを大量に使用することを試みた。1台のテスラ・ロードスターでは7,000個が使われる。モデルSでは確か12,000個程も使われる。」

「僕らのような新興の弱小企業にとって有利だったのは、1台の車に搭載されるLi-ionバッテリーの数が、1200~1300台のラップトップPCに用いられる数と同等だったことなんだ。数千台の車を販売すれば、それは何百万台ものノートPCを売るのと匹敵する数量のLi-ionバッテリーが売れる。つまり突然、僕らの会社が世界市場で最大のバッテリー購入企業となった。最良の条件でバッテリーの仕入れが可能になったんだ

 

Disruption Possible!

成功の可能性を確信!
  • バッテリーの確保
  • 消費者の脱・化石燃料に向けた意識
  • コンピュータと動力エレクトロニクス(電気モーター)の問題解決
  • 車両製造のアウト・ソーシング先の決定→英国のロータス社にて車体製作

 

さぁ、Focus Groups(定性調査)の時間だ!

でも、実はFocus Groups(以下FG)を実施する意味が無い!?
  • FGが最も威力を発揮するのは、特定のものの順位付や確認の際。
  • 「どんなクルマが欲しいか?」のような問いは無意味。

マーク:「かつて僕らが電子書籍のe-Bookを開発した際、FG調査を実施した事がある。僕らがデザインした機器はあまりにもスタイルが洗練され過ぎて誰もスイッチの場所が見つけられなかった。 FG調査の意味はこういう部分にあるんだ。どんなクルマが欲しいか?なんて問いには実は誰も答えられないんだよ」

 

かつてヘンリー・フォードが「どんな乗り物が欲しい?と人々に訊いたとしても、彼らは『より速い馬かな』としか答えないだろう」と言ったそうです。イノヴェーションのヒントはあったとしても、FGでは答えは見つからない、という訳です。

 

どんなEVが実現可能なのか?

  • 質量は?
  • 加速は?
  • 馬力は?
  • 航続距離は?
  • コストは?

マーク:「そこで僕らはスーパー・コンピューターを駆使して検証した–というのは冗談で、表計算ソフトと高校程度の物理の知識があれば十分なんだ!」

 

Spreadsheets and high school physics (表計算ソフトと高校程度の物理で十分!)

Spreadsheets and high school physics

  • Force=質量*加速度
  • 加速度=Δv/Δt
  • Power=トルク*2π*回転スピード
  • バッテリー出力は207Wh/kg
  • バッテリー蓄電量は1800mAh

 

マーク:「判明したのは、石油は全く必要ない、という事実」

マーク:「平均的なカリフォルニアの環境なら、このイラストのようにEVと太陽光パネルを設置したガレージがあれば化石燃料に一切頼らない生活が現実のものとなる。ガレージの屋根に設置するパネルの数なんてこの程度で十分なんだよ!」

 

「もうひとつ、EVであれば素晴らしく楽しいクルマが作れる、という事実が確認できたんだ!」

EVであっても楽しいクルマは作れる!

  • 0-60mph: 4秒以内
  • 効率(発電から消費まで): 135mpgと同等
  • EPA基準の航続距離: 200マイル以上

マーク:「誰もが速いクルマが好きなんだ。最高速度は口プロレスの際には有効だけど現実的には0-60mphの加速の方が日常的に体感できる性能だ。当時最高の性能を誇ったあらゆるスーパー・カーの0-60mphの加速性能はほぼ4秒だった。だから僕らの作るクルマは4秒以内と、どれよりも速い加速性能をモノにしようと考えた」

「物理は僕らに味方した。電気モーターは他のどんな内燃機関よりも優れた加速性能を有するからね」

「そこから先はシリコン・バレーを舞台とした仕事となった」

 

***

 

*講演ではこの後、テスラ・モーターズ起業に際しての資金集めと企業の発展過程が時系列で解説されていますが、今回その部分は省略させて頂きました。 万が一要望があるようでしたら機会を見つけて取り上げて見ようと思っています。

最後に講演後半部分で行われた質疑応答の中から重要と思える部分を紹介しておきます。

 

なぜスポーツカー生産から始めたのか? 販売戦略はどのように考えたのか?

マーク:「まず、ハイエンド・スポーツカー・マーケットは価格弾力性が低い点に注目した。優れた加速性能に対して高価な値段付けがなされ、それが顧客に受け入れられている。よって僕らの考える高性能EVをもって初期参入する市場として大変都合の良い領域だった。よりコスト管理が厳しく、競争も熾烈な量産の大型高級セダンの領域に最初から参入できるとは考えていなかった」

「もうひとつは、マーケット・ボリュームが小さい為、僕らのようなスタート・アップ起業にとってはコントロールが比較的容易な点だ。シリコン・バレー周辺、LA、マイアミ、ニューヨーク、と販売戦略やアフター・サービスなどを考える際にも地域を限定して把握できるからね」

「さらに、僕らが導入したユニークな手法は直販システムだ。調査では、人々は車を買う際にディーラーとコンタクトを持つ事に大きなフラストレーションを感じていることが判明した。お金を払っているのに、できれば関わり合いたくない連中(カー・ディーラー)と関わらざる負えない既存の販売システムは何かが間違っている、そう思わないかい?」

「冒頭に述べたように、僕らの究極の目標は脱・化石燃料社会の実現だった。まずはハイエンドのスポーツカー・マーケットでポジションを作り、そこで人々のEVに対するパーセプションの変革が一番目の目標だった。『成功したらポルシェ』、じゃなくて『成功したらテスラ』という具合にね

「ハイエンドのスポーツカーを売って稼いだ金を、次はもっと市場規模の大きな高級大型セダンの開発と製造・販売の資金として投入した。ロードスターの何十倍もの市場規模だ。競争は熾烈になっていく。幸いテスラのモデルSはこの領域で大成功している」

「分岐点となるのはモデル3だ。より多くの人々が購入可能な価格設定のこの車種はアウディのA3とほぼ同価格帯だ。モデル3が成功すれば世の中の流れは一気に変わる」

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後編のまとめ

  • クルマを売るのが目的ではなく、根源的な目的は脱・化石燃料
  • 自動車業界に新規参入する際には、まずはニッチなハイエンド・スポーツカー市場からスタート→ 人々にEVに対するパーセプションの変革を促す。
  • 稼いだ利益を、より大きな大型高級セダン市場への参入に投下(Model S)→EVへのパーセプション変革を定着させる。
  • セダン市場で獲得した利益は、さらに大きな市場であるコンパクト・カーの領域に投下(Model 3)→ EVがメイン・ストリームとなり、脱・化石燃料社会の実現が現実となる

 

 

以上、ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

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テスラがEV車で成功した理由 (前編) ー Marc Tarpenning

Tesla 共同設立者 Marc Tarpenning

脱・石油 – それこそがテスラを起業した理由なんだ。

Marc Tarpenning – テスラ共同創業者

 

2018年現在、アメリカでは「世界で最も重要な自動車会社」とまで言われるようになったテスラですが、今回は創業者のひとりであるMarc Tarpenning が解説するテスラ成功理由の分析です。

今回は内容が濃いので、前編「なぜEVを製造することにしたのか」と、後編「誰がEVを買うのか」の2部構成にての解説になります。2017年に実施されたProduct Leader Summit にてMarc Tarpenning が行なったプレゼン動画を基にしています)

 

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次のビジネスは世の中の問題を解決する事!

テスラは、Martin Eberhard とMarc Tarpenningという2名のエンジニアによって2013年にシリコン・バレーに設立されました。

彼らはそれ以前にRocket eBookという、現在のタブレット端末の祖先となるようなデバイスを用いて本が読める電子書籍サービスを開発し、2000年にその会社を$187,000,000で売却します。

潤沢な資金を得た彼らが、次なる事業を手がける際にまず最初にやったのは、現在人々が直面している諸問題を列挙することでした。それらは;

「世の中は深刻な問題に満ち溢れている」
  • 水不足
  • 環境
  • 資源枯渇
  • 農産物生産
  • アメリカにおける格差の拡大
  • 世界の貧困問題

そして選ばれたのが石油でした。

 

石油こそが諸問題の根源

なぜ石油が諸問題の筆頭として選ばれたのかをMark Tarpenning(以下、MT)は以下のように説明しています。

「石油 - それは問題の宝庫!」

MT:  「石油ってスゴイんだよ! だってあらゆる問題の宝庫だからね」

「ざっと挙げると、CO2排出による環境問題、資源の利権をめぐっての政治問題や安全保障の問題、エネルギー資源の枯渇。つまり石油への依存が解消されれば、これらの問題すべてが劇的に改善されるということなんだ」(相方のMartin Eberhardもあるインタビューで「僕は当時のブッシュ政権の外交政策に大いなる不満を抱いていた。脱・石油エネルギーを次の目標に選んだ理由のひとつがそれだった」と述べています)

石油消費の7割はクルマによるもの

「そこで僕らはアメリカで消費されている石油の内訳を調べて見た」

「石油消費の主役はクルマ」 Mark Tarpenning のプレゼン資料より

「約70%が交通・運輸の燃料として消費されており、そのうちの50%が乗用車やピックアップ・トラックの燃料として消費されていたんだ」

「脱・石油依存を目指すなら、まずは乗用車市場に目を向けるのが自然の成り行きだった」(注:テスラはシリコンバレーで起業された初の自動車会社となりました)

以下、動画でMTがプレゼンする流れに沿って解説していきます。

 

EV – その他オルタナティブとの比較

「マーチン( 協同経営者のMartin Eberhard)も僕も、電気自動車こそがその解決策だと確信していた」

「そして僕らは、電気以外の代替エネルギーで走る方式の自動車との比較検討を徹底的に行った。せっかく起業しても、もっと優れた方式の競合相手が出現してしまえば市場で敗退してしまう。そんな事は誰だって避けたいからね」

以下は石油以外の代替エネルギー候補として挙げられたもの;

「化石燃料以外の選択肢は?」 ガソリンエンジンの代替となる動力源の候補
  • バッテリーと電気モーター
  • バイオ・ディーゼル
  • クリーン・ディーゼル
  • 圧縮天然ガス
  • エタノール
  • ハイブリッド
  • 水素エンジン
  • 水素燃料電池
  • メタノール
  • 充電併用ハイブリッド
  • 太陽電池とモーター

 

FCV(水素燃料電池車)

MT: 「覚えているかな?この時代(2003年頃)、FCV(水素燃料電池車)が盛んにもてはやされ投資がこの領域に集中していた」

「だから僕らもFCVは特に注意深く吟味したんだ」

「燃料電池はどうだろう?」 FCV(水素燃料電池車)の概念図。水素を電池内部でイオン化させることによって電気を作り出す。水素自体は単体で自然界に存在しないため水素ガス生成には膨大なエネルギーが費やされることになる。
FCVとEVの効率比較。FCVの場合、電気エネルギーから水素ガスを得る段階で最善でも25%にまでエネルギーが減少。EVは85%にとどまる。

でもFCVの効率は最もオプティミスティックな理論値で計算したとしても、せいぜいEVの1/3程度だという事が判明した。

その上、水素を供給するスタンドを世の中に広めるためには膨大なインフラ投資が必要になる。

そんな非効率なものが日の目を見ることなんてあり得ない、というのが僕らの結論だった。

from ‘Inside EVs’ Hydrogen vs. EV   EVとFCVのインフラの比較ー圧倒的にEVの方がシンプル!

 

エタノール燃料車

もうひとつがエタノール燃料だ。

特にバイオマスによって生産されるエタノールに注目が集まっていた。

「エタノールはどうだろう?」 エタノール車の場合の効率はEVの約1/2

エタノール車の効率はEVの半分程度だった。でもバイオマスからエタノールを生産する複雑な過程を経るよりも、原料(家畜の糞や木材等)をそのまま既存の火力発電所で燃やして発電しても効率は同等なんだよ!

よってバイオマスによるエタノール生産にも将来性などは見いだせなかった。

トウモロコシを原料にしたエタノール生産の考察

さらにアメリカは、エタノールの原料としてトウモロコシを栽培する唯一の国なんだ。それも調べてみた。

交通エネルギーの50%をエタノールで賄う場合に必要となるトウモロコシ畑の面積(CIA資料)

上の図は交通エネルギーの50%をエタノールで賄う場合に必要となるトウモロコシ畑の面積なんだけど、これを実施するとなると他の農作物を作る余裕がなくなる。するとアメリカは自国で必要な食料を100%輸入に頼らなくてはいけなくなる。

当然こんなのは問題外だった。

「セルロース エタノールはどうだろう?」 Switch Grass(雑草の一種)を用いたCellulosic Ethanolの場合の考察。

Switch Grass (雑草の一種)から生成されるセルロース・エタノールはどうだろう? 必要な栽培面積はトウモロコシの1/4ほどに改善されるけど、それでもまだ大幅な食料の輸入が必要となる。

 

耕作地と同じ面積に太陽電池を設置したら?

でも、トウモロコシ栽培に必要とされる耕作面積に市販の太陽電池を設置したらどうだろう? そこで作られた電気をEVに充電して走らせれば、なんと32倍もの航続距離が得られるんだ。

つまり、たとえ今後どんな新技術が登場しようとEVの敵ではないという結論に僕たちはたどり着いたんだよ。

「Well to Wheel Efficiency」 燃料が採掘されてから動力になるまでの間の効率比較。グラフ左下がガソリン。効率の悪さに注目。

ちょっと付け加えておくと、たとえEVの電気を全て石炭による既存の火力発電で賄ったとしても、それでもまだエネルギー効率は現在のガソリン車より良いんだよ!

(以下後編)

***

 

2018年1月現在、世界のEV化に向けてのシフト・スピードは日々加速しているようです。でも2013年当時、EVなどは一般には注目されていない領域でした。

マーチンとマークの2人のエンジニアがEVの将来性に目を向けた理由は、「世の中の問題をテクノロジーで解決する」という非常にポジティブな精神に基づいたものでした。

金儲けや数字のゲームに明け暮れる経営者や起業家たちと一線を画す彼らの立ち位置に気がつくと思います。

人々がテスラに惹かれるユニークネス、実はこんなところに根源があるではないでしょうか?

単なるプロダクトではなく、所有することで希望ある未来が目の前に広がっていくような気持ちになれる − テスラ・オーナーはそんな想いを共有しているのではないでしょうか?

後編「EVは誰が買うのか?」にて、人々の「想い」の部分をどのようにしてデザインしていったのかを解説してみたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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テスラの成功理由-マーク・ターペニング(テスラ・モーターズ共同設立者)

テスラを創業したふたり。Marc Tarpenning(左)、Martin Eberhard

「人々がEVを買う一番の理由はガソリン代の節約なんかじゃない。社会正義の実践という意思表明にあるんだ」

マーク・ターペニング

 

 

「現在アメリカで一番クールな自動車会社」とまで言われ、世界のEV推進の流れを一気に加速する起爆剤となっているテスラですが、その成功の裏には綿密な市場環境予測と商品のポジショニング、そしてエンジニアの熱い想いがあったのをご存知でしょうか?

EV自体は新しいものではなく、実は初期の実用EVは既に1800年代の中頃、充電可能な鉛蓄電池の発明とほぼ同時に誕生しています。

しかしEVの販売数は1910年代をピークに、その後は徐々に下降線を辿り市場から姿を消します。理由は大量生産方式で圧倒的な価格競争力を持ったT型フォードに敵わなかったから、というのが通説です。

再びまたEVに注目が集まるのは近年になって地球環境問題に人々の関心が集まるようになってからです。

ガソリン自体のエネルギー量は非常に高いのですがエンジンの中で燃焼されて動力エネルギーとして変換された場合の効率は良くても20%程度で、残りのエネルギーは大量の熱として逃がしてしまいます。

翻って、電気モーターは90%以上のエネルギー効率を有しており、単にエネルギー効率という観点では圧倒的にEVの勝利です。

しかしながら、長年ガソリンやディーゼル内燃機関を搭載した車に取って代われるようなEVが登場することはありませんでした。

その理由は、充電式の電池のコストが非常に高かったことに加え、充電容量に限界があり航続距離が短かったのと、充電に長い時間を要する、という3つ部分がハンディとなっていたからです。

また、市場に登場したほぼ全てのEVは省エネ・カーとしてのポジショニングで開発されていました。

要は燃費のみならず、車両本体の値段も可能な限り低く抑えることに主眼が置かれた設計だったのです。

左右の写真は2003年当時市場で販売されていたEVの例(M.Tarpenning プレゼン資料より)

 

 

 

 

 

車の魅力を語る上で最も重要なのが「スタイリング」と「性能」です。

省エネに主眼が置かれて開発された多くのクルマたちは、決して人々をワクワクさせるような魅力を持ってはいなかったのです。

テスラ・モーターズを設立したMartin Eberhardと Marc Tarpenningのふたりのエンジニアが注目したのがこの部分でした。

 

「人々は速いクルマが好きなんだ」(M.Eberhard)

 

「いくら化石燃料から脱却できるEVだと言ったところで、ゴルフカートのようなカッコ悪くて遅いクルマだったら人々は興味を示さないだろう? ほとんどのEVが失敗した理由はそこなんだ」

 

「でも、ICE(Internal Combustion Engine= 内燃機関)が古臭く見えてしまうような圧倒的に高性能で魅力的なEVなら、人々は喜んでそちらに乗り換えたくなるだろう? そうでなくては長年ICEで培われてきた人々のクルマに対する意識を変えることなどできないと思ったんだ」

「僕たちの創り出したクルマは0-60mile加速では他のほとんどの量産高性能スポーツカーたちを凌駕する。これがEVに対する人々の意識を変革する強力な説得材料となったんだ」

 

さらに、彼らは当初GMによって1996年から1999年の間の3年間だけリースのみで存在していたEV1という、当時カリフォルニアではそこそこ人気のあった電気自動車の顧客層分析を行いました。

EV1

すると、EV1をリースした顧客層というのは、ベルエアなどの高級住宅地に家を持ち、年収が$250,000以上もあるような富裕層だったことに気がつきました。

この人たちはガソリン代を気にするような人々ではありませんし、自宅のガレージにはEV1以外にもポルシェ911が並んでいたりします。

さらには、マークの住むシリコンバレー周辺ではトヨタのプリウスが大人気でした。

「どんな人がEVを買っているのだろう? そう思って僕たちは顧客層を注意深く観察してみた」

「ご承知のようにパロアルト周辺の駐車場には、ポルシェ、プリウス、ポルシェ、プリウスと、互いに並ぶようにしてプリウスとポルシェ911の姿をよく見かける。そしてこれはトヨタの大誤算なんだけど、プリウス・オーナーの多くはもっと高価なレクサスからの乗り換え組みなんだ。彼らはガソリン代よりもスターバックスでラテに費やす金の方が多いような連中なんだよ(笑)」

「人々がEVを選ぶ際の動機は、『自分はクリーン・エネルギーの推進を応援する人』という自己表現欲求にあったんだよ」

 

そこからテスラ・ロードスターの開発が始まりました。

マーチンとマークのふたりのエンジニアが特に優れていたのは、人々がワクワクするような魅力的で高性能なEVを作るという、それまで大自動車メーカーも試みることのなかった市場のバキューム・ゾーンに着眼し、そこに果敢にチャレンジした点だと思います。

それは単に技術的な側面の開発だけにとどまらず、「クルマ好きの気持ち」というエモーショナルな部分にまで深く踏み込んだ包括的なライフスタイル提案となっています。

ざっと挙げると; カー・ディーラー(古色蒼然とした古い慣習の下で多くの顧客層が不満を抱いている部分!)を介さない直販体制*や、「スーパー・チャージャー」と名付けられた急速充電ステーションの全国ネットワークの構築、オーナーが自宅ガレージで充電するための「パワー・ウォール」と呼ばれるリチュウムイオン・バッテリーのストーレージ・システム、さらには自家発電を可能にするソーラー・パネルの販売と設置まで、非常に高品質な製品とサービスの提供を実現しています。

言い換えれば、彼らが産み出したものは、EVを中心に据えたオプティミステイックなライフスタイルの提案でした。

コスト・カットのための妥協の産物のような存在だった従来のEVには未来へのペシミスティックなムードが漂います。

しかしテスラが提案するEVからはオプティミスティックな未来が感じられます。

人々が競ってテスラを手に入れたがる理由が実はここにあるのです。

こんな自動車会社は近年どこにも存在していませんでした。

 

* * *

 

次回はMarc Tarpenningの講演から「テスラがEVとして成功した理由」を詳細にみて行こうと思います。

 

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*Teslaの直販体制: 既存のディーラーの存在を脅かすため、各方面で波紋を生み出しています。ユーザー利益が最優先とは行かない局面も多々あるようです。

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ソーラー発電とリチュウムイオン・バッテリーだけでアメリカのすべての電力供給は可能 - Elon Musk

ソーラー発電とリチュウムイオン・バッテリーだけでアメリカ全土の電力供給はもう可能な段階なんだよ! Elon Musk

(2015年のテスラ・エネルギー発表会動画より)

 

前回はリチュウムイオン・バッテリーの技術革新に触れましたが、今回はそれがどのような影響を世の中に与えているのかを見ていきたいと思います。

 

テスラは一般家庭向けの「パワー・ウォール」と、工場や大規模な施設のユーティリティー用の「パワー・パック」という2つのタイプのストーレージ・バッテリーを供給しています。

これはその製品発表会からのピックアップ。

壇上のイーロン・マスクは、昨今のソーラー・パネルとリチュウムイオン・バッテリーの技術革新により、化石燃料を用いる現状からの脱却が可能なことを訴えています。

下のイラストは、アメリカにおける電力需要をすべてソーラー発電に切り替えた際に必要となるソーラー・パネル総面積のイメージ。

テキサス州の左上部分、青い四角がアメリカ全土に電力供給する際に必要となるソーラー・パネルの総面積

別のプレゼンテーションでマスクは「アメリカ全土の電力を供給するのに必要なソーラー・パネルの総面積は約100マイル四方程度で十分」と言及しています。

詳細には触れられてないので計算方法は不明ですが、この数字を平方キロに換算すると約26,000平方キロ。

イラストで示されたテキサス州(総面積は約700,000平方キロ)の一角は州全体の約4%の面積となります。

アラスカとハワイを除いたアメリカ本土総面積との比較では必要とされる面積は0.003%ほど。

彼は「新たな土地を探さなくとも、既にある建物の家根にパネルを設置するだけでこの広さは獲得できるんだ」と言ってます。

この算出方法を日本に置き換えてみると、すべての電力*をソーラーで賄うのに必要な面積は約6,500平方キロという計算になります(アメリカの年間電力需要の約1/4として)。

これは栃木県や群馬県の面積とほぼ同じ位。

マスク;「ソーラー発電のネックとなっていたのは太陽は毎日沈んでしまうこと。多分みんなも気づいていると思うけど、夜間に発電はできないからね(笑)」

「だが、リチュウムイオン・バッテリーの進歩がそれを変えた。昼間に太陽光から得られた電気をバッテリーに貯めておき、日が沈んだ後はバッテリーの電気を使う。場合によっては完全にグリッド(電力会社からの送電)から独立することも可能だ」

 

以下に示されたイラストは、ソーラー発電でアメリカの全電力を賄う際に必要となるバッテリー設置面積のイメージ(赤色ピクセルひとつ分!)。

青い四角の中の赤点がリチュウムイオン・バッテリー用に必要とされる面積

マスク; 「バッテリーのために必要とされる土地など、原発の設備と比較したら大した広さではないんだ」

 

ソーラー発電とリチュウムイオン・バッテリーの組み合わせは、化石燃料を一切使わないエネルギー供給を可能とします。

マスク; 「僕たちはカーボンを大量に排出し続ける現状をいつまで続けるつもりなのだろう? 一旦排出されたカーボンは大気から取り除けない。ここから抜け出すのが早ければ早いほど良いのは明白だ」

このまま化石燃料を使い続けた場合のカーボン排出量予想
ソーラー発電とバッテリーによる再生可能エネルギーに転換した場合

 

以下マスクのプレゼンの最終部分から;

「アメリカの電力すべてを賄う際に必要とされるパワー・パックの数は1億6,ooo基。交通や冷暖房など、現在は大半が化石燃料で賄われている分野まで含めると20億基で実現可能となる」

「これは途方もない数に思えるだろう? でもトラックを含めたアメリカ全土を走る自動車の総数と同じくらいなんだ。自動車は何年かごとに新車にとって代わられている。その気になれば、これくらいの数のバッテリーを普及させるのは可能なんだよ」

「だから僕らはバッテリーに関する特許をオープンで無料にする。多くの企業がこの分野に参入してくることを望んでいる。人類が再生可能エネルギー社会へと転換するのを促進したい」

会場は大拍手。

https://youtu.be/yKORsrlN-2k?t=3m23s

動画の3’25″辺りからが今回取り上げた内容のパート

 

***

 

夢に溢れたとても良い話でしたが、ここでのマスクはソーラーパネルの効率やコスト**、それに地域によって存在するレギュレーション等には触れてません(さらには長年市場を独占していた電力会社や石油会社などの既得権益層からの反対や圧力もあります)。

マスクの話は近未来を予見させるものですが、技術・コスト・制度等、これらが揃って現実化するにはまだ少々時間がかかることでしょう。

そのスピードを速めるために特許をオープン&無料にして他の企業の参入を促進させるなんて、まことにアッパレですね。

 

***

  • Wikipediaによると、日本が2014年に消費した総電力量は 934,000,000,000KWh/。同年のアメリカの消費量は 3,913,000,000,000KWh/yで約4倍。

 

**2017年現在、ソーラーの最新技術であるPerovoskiteを用いたパネルのトップクラスは33%の発電効率を獲得しており、価格も1平方メートルあたり$105以下にコストダウンが進んでます。 さらに、46%という高効率のEpitaxially Grown Single Crystal パネルは1平方メートルあたり$40,000以上と大変高価。人工衛星等に用いられています。

Stanford大のM. McGehee教授のサイトより引用

 

***

 

以下、関連動画;

現在テスラが南オーストラリアで建設中の電力供給施設。完成すれば2017年10月現在、世界最大のリチュウムイオン・バッテリーによるストーレージ施設となるプロジェクトの紹介。発電は風力&ソーラーの併用。

 

上記のレセプション・パーティーの際に参加者のスマホで撮られた動画。マスクのプレゼンに聞き入る観客たちの熱気が伝わってきます。

 

ここまでご覧になっていただきありがとうございます!

引き続き次回も、ソーラー・パネルとリチュウムイオン・バッテリーの進歩がどんな風に世の中を変えていくのか、そんな部分を見ていきたいと思います。

 

XX

 

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Space X – 1度の打ち上げで10基の衛星を軌道に配置

Space X が打ち上げた衛星は一度に10基!

 

日本時間で2017年10月10日の午前、国産ロケットH2Aが衛星打ち上げに成功しましたが(おめでとうございます!)、現地時間でその前日の9日、カリフォルニアのバンデンバーグ基地から民間企業であるSpace Xはイリジュウム3の打ち上げに成功しており、一番コストのかかる1段目のブースター・ロケット部分は打ち上げから7分少々後に無事に帰還しています。

イリジュウムは今回1回の打ち上げで10個(!)の衛星を計画された軌道に配置したようです。

10基の衛星を積み込んだ2段目ロケットは軌道を回りながら100秒ごとに1基の衛星を放出し、そこから衛星は若干の高度を上げて周回軌道につきます。10基すべての衛星を配置する作業は15分で完了します。

今回で3回目、2018年中頃までにあと数回の打ち上げてを行い、バックアップも含め全部で81基の衛星を軌道に乗せる予定。そのうち75基がSpace Xによって打ち上げられるそうです。

IRIDIUM社 Matt Desch氏によるイリジュウム・システム解説部分(14’00″より)

 

今回の成功でトータル30基が軌道に配置さた事になり、81基の配置が全て完了すれば地球上どこでも常時GPS、電話、その他コミュニケーションが可能となるそうです。

特筆すべきは、この衛星システムは常時、地球表面上のあらゆる部分をカバーするので、どこでもコミュニケーションが可能となる事。

例えば、極寒の吹雪の中、わざわざテントを出て小高い丘に上がって衛星を捉えるような行為は一切不要になる、と動画でも解説しています。

打ち上げの瞬間

 

プレスキット;
http://www.spacex.com/sit…/spacex/files/iridium3presskit.pdf

打上げの動画とイリジュウムのPR動画;
http://www.spacex.com/webcast

***

以下、私感ですが;
1段目のブースターロケット部の回収技術を持たない日本のロケットではコスト面で商業衛星打上げビジネス市場で戦うのは厳しいのでは?

これらの比較はおろか、日本のマスメディアはSpace XもTeslaSolar CityBoring Co.も何も詳細を伝えていないように思います。

でも、現代の「モノづくり」というのはこういうものを指すのではないでしょうか?

彼らは盛んに「モノづくり」という言葉を一種のバズワードのように使いますが、どうもそこでイメージされている世界観には、下町の鉄工所で年季の入ったガンコ職人が旋盤回して手先の器用さと体に染み込んだ感覚や技術を発揮して神業のような仕事ぶりを実現して欧米人の鼻を明かす、なんて想いが限りなく漂っているように思えてしまうのが残念です。

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Teslas Everywhere / テスラが溢れる街、ノルウェー・オスロ ー EV最先端都市事情

 EV先進国ノルウェイ紹介
Vox

テスラが溢れるEV先進都市 − ノルウェー・オスロのEV事情の紹介。

 

アメリカのブログサイト「VOX」が2017年6月にアップしたノルウェー・オスロにおけるEV事情の紹介動画の解説です。

アメリカからやってきたVOXレポーターのJohnny Harris氏がオスロの街を散策しながら、何故ノルウェーでテスラが大人気なのか?その理由を探ります。

***

 

先日、Nissanが新たなEV車を発表し、そのCMで謳われている「自動運転」の呼称に問題があるとか無いとか、なんて話題がネットを賑わせているようですが、EV車の普及を社会インフラや政策と一環のものとして捉えた場合、ノルウェーの事例は大いに参考になると思い、今回はこの動画を取り上げました。

以下概要:

「僕の人生でテスラを目にしたのは今まで(アメリカ国内では)たった5台きり。そのうちの3台はショールームの中に展示してあるやつだった。それなのにここ(オスロ)を歩き回った2時間ですでに50台ほど目にした。驚いたよ!」

以下、ハリス氏が歩きながら述べるノルウェーにおけるテスラの販売データ;

  • 2014年には月間売上台数でNo.1。これはEVのみでなく車全カテゴリー中の1位。
  • 販売台数の割合は2016年の数字ではテスラが29%ものシェアを獲得している。3月単月では37%とシェアを上げている。
  • 翻ってアメリカでのテスラ車の割合は1%にも満たない*。

(ここで彼は持参のドローンを飛ばしてオスロの街の空撮映像を紹介)

「ノルウェイはダム等による水力発電で99%の電力を賄っている。よって発電コストも安価なんだよ」

「テスラのみならずEVが街に溢れている。ナンバープレートの冒頭に’E’の文字があるのがEVだ」

ノルウェーではEVはナンバープレートの冒頭文字が ’E’ となっているので簡単に識別できる

 

「一番肝心なのは政策。EV推進のためのインセンティブ付与を国策として進めていることだ」

EV推進のためのインセンティブは以下;

  • 公営駐車場におけるEVの駐車料金はタダ
  • 公営の充電施設での充電料金タダ
  • HOVレーン(High Occupancy Vehicle=乗員が2名以上の車両のみが走れる優先レーン)を乗員1名のときでも走行可能
  • 車両登録料タダ
  • 所得税の優遇制度
  • 消費税(Sales Tax)全額免除

 

(余談:動画でこの辺りで紹介されるグラフィティの「Even Thugs Cry(悪党だって泣く時がある)」はラップMCの故2pacwhen Thugs Cry 」からの引用と思われます。曲の歌詞は非情な世に対する怒りがテーマとなってるようです)

ここでハリス氏はEV車に充電する街の人にインタビューを行います(動画は4’05″近辺)。

EV優遇政策
「オスロの街中に設置されている2,000箇所のチャージ・ステーショは全て無料なんだ」

ハリス氏;「ここが、今回僕が見つけた一番のお気に入りの場所、EV車用チャージ・ステーションだ。オスロ市中に2,000箇所も設置されているんだよ。利用中の街の人にちょっと話を聞いてみようか」

街の人:「オスロの街中に設置してあるEV車用のチャージ・ステーションは全て無料なんですよ。その上、有料道路の通行料もタダになるんです」

***

 

なんだか素晴らしい制度ですね。これだけの社会インフラの資金はどこから捻出されているのでしょう?

それは「Sovereign Wealth Fund (国富ファンド – 以下SWF)」と呼ばれる政府系ファンドの存在です。

ノルウェーのSWFは2017年現在で約1兆ドルと世界最大です。このファンドがインフラやインセンティブ政策を可能にしている訳です。

ファンドの資金はノルウェーが石油や天然ガスを売って儲けたお金。実は北海油田を持つノルウェーは世界第14位(2016年度統計)の産油国なんですね。また、近年は天然ガスの比率が増えているようです。(下の産出量推移グラフの緑色が石油、赤色がガス)

出典:Norwegian Petroleum Oil and Gas Production

 

 

動画の総括部でハリス氏は、「グリーン化の資金の出所が石油やガスなどCo2を排出する<オイル・マネー>に頼っているのは矛盾してない?」との疑問を投げかけます。

「ノルウェーがやっているのは、自国で化石燃料を燃していないだけで、結局は石油やガスは売られた先で燃やされる。自国のグリーン化推進が、実は他国への化石燃料の輸出で進められているんだ。この矛盾を彼らはどう捉えているのか、ノルウェイの友人に訊いて見ようか」

グリーン化は化石燃料を売った金で進められている。そこに議論の余地はある事はノルウェイ人も意識している。

友人談:「そうだねぇ、中国やインドなどの発展途上国では石油やガスはまだまだ必要とされているしねぇ。なるべくグリーン化に沿った採掘とかって感じかなぁ。化石燃料を売ってグリーン化を進めていることに議論の余地があるのは僕らも認識しているよ。でも何もやらないよりマシだろう?」

 

ハリス氏は最後に、「夢のように思えたグリーン化、グリーン・インフラ、グリーン社会の紹介だったけど、それは<オイル・マネー>によるもの。結局は世界全体を化石燃料から脱却させる解答ではない事が判ったと思う。それが今回の結論」と動画を締めくくります。

 

***

再度余談ですが、以前テスラの創立者であるイーロン・マスク氏が何かのインビューの中で、一番多くのテスラを買ってくれている個人はノルウェーの人なんだ。彼は眼科医なんだけど、一人で7台ものテスラを保有している。EVを広める目的で、誰もが乗りたい時に乗れるように試乗の機会を開放しているんだよ」と言っているのを思い出しました。この話、ノルウェーという国の民度の高さがうかがい知れるように思いました。

レポーターのハリス氏が動画で指摘している「化石燃料がグリーン化への資金になっているのは矛盾」という指摘は理解できますが、僕から見れば潤沢な資金が国民全体の富の総量を増やす目的に使われている事実は羨ましい限りです。

日本は世界有数の債権国なのに、稼いだお金はどこに行ってしまうのでしょうか?

 

 

*アメリカ国内でもイーロン・マスク氏の進める、一般には奇想天外に思えた各種ビジネスは当初既存勢力からかなり叩かれていました。テスラに関しては現在も州によって販売ができない法的枠組みで販売を拒まれているようです。

*ノルウェイは世界第14位の産油国  出典:Global Note ;   https://www.globalnote.jp/post-3200.html

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テスラ モデル3 納車式典の様子 (Tesla Model 3 Handovers)

イーロン・マスクが創造する企業ユーフォーリア

 

2017年7月28日(金)、カリフォルニア フリーモントにあるテスラ自動車の工場敷地で行われたTESLA MODEL 3 納車式の動画が興味深かったのでアップしました。

最初の50台のうち20台が試験車両として除かれ、残りの30台が初納車。新規オーナーはテスラで働く従業員が基本とのこと。

式典で壇上に立つイーロン・マスクはまるでロック・スターのようです。

聴衆の喜びに溢れた騒ぎぶりは、かつてマック・ワールドでS.ジョッブスと信者たちが共有したユーフォリアに近いものを感じます。

「一番のチャレンジは、現在抱えている多数の予約オーダーに応えるべく、新型のモデル3を迅速に大量に製造する事。これからが大変だよ。地獄へようこそ!(笑)。でもみんなはもうそれのベテランだよね、いいかい、地獄(過酷な状況?)を通り抜けなきゃいけない時の方法はひとつ。ただ突き進むのみ、だよ」

と壇上のEMが笑いながら言うと、なんと従業員たちは歓喜の声を挙げます。かつてS.ジョッブス時代のアップルを感じる部分。
(全ての企業経営者が夢見るであろう熱烈な企業ファシズムが浸透しているかのよう)。

翌 29日付け(現地時間)ニューヨーク・タイムズ紙でもこれを報道してますが、「多大なプレ・オーダーに応えることができるのか?それがテスラに課された課題」と批判的なトーン。

https://www.nytimes.com/…/bus…/tesla-model-3-elon-musk.html…

式典で壇上に立つEMはそれらの問題へのソリューションとして;

1、今年の暮れまでにモデル3を5,000台/week生産体制に持っていく。

 

2、ネヴァダに設立した世界最大のリチュウム電池工場のギガ・ファクトリー
(この工場ひとつで、その他の全世界のリチュウム電池生産量を凌駕。ギガ・ファクトリーを紹介したwired誌の紹介記事

 

3、「Super Charger」(急速充電スタンド)の設置数を2018年度中に現在の3倍に増設。世界で乗り回せる車となる。

「Super Chargerは単に急速充電スタンド。充電時間を気にしなければ今だって電源があれば世界のどこでも乗り回せるんだ(EM)」

 

また、リスクとして彼が言及したのは;「モデル3では1万にも及ぶ専用部品が用いられている。部品の供給元は2/3が北米、残りの1/3がその他海外から。供給される部品の中で一番納期の遅れるものに生産のスピードが制限されてしまう。現在はこの部分の改善に最大限の努力を集約している」と。

EMの説明によると、
「モデル3には8台のカメラ、12台の超音波ソナー、4台のレーダー、10テラバイトを超える性能のコンピューターが搭載されている。ハードウェア面は来たるべく全自動運転時代に完全に対応している。現時点で生産されている他のテスラ車種も同様。これは意外と知られていない事実なんだよ」と言ってます。

最後にEMは、「同価格帯クラスで、他のどの車種もこれ以上の性能と安全性を有する車はない」と自信たっぷりに言います。

***

 

テスラ・モデル3の現地価格とスペック

グレードは2タイプ。 スタンダードが35,000ドル、ロング・レンジは44,000ドル。

 

以下、2タイプの性能比較;

Standard: 1回の充電での航続距離 220mile≒354km、0-60マイル加速 5.6秒、最高時速 130mph≒時速210キロ。

Long Range: (同上順)310mile≒500km、5.1秒、140mph≒時速225キロ

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AIは人類が直面する最大のリスク – 2 (イーロン・マスク)

「ひとたびAI開発の現状が認識されれば、人々は大変な恐怖を感じるだろう。それほど深刻な状況なのです(EM)」

***

先の投稿に続いて、同じNGA会議(全米州知事連合?)の最終日のElon Muskの「AIの脅威」に関する応答から、興味深い部分をもうひとつ抜粋しました。

 

***

 

アリゾナ州知事の質問:「まだ何ものと判断もつかない分野(AI)で、我々(政治家)はどのようにして規制基準を設けていけば良いのか?」

以下、EMの応答:

1、まず現状認識だ。現在のあなた方はそれすらできていない。

2、チェック機関の設立。目的はAI開発の現状を認識し評価すること。

3、そして規制の導入、簡単な事です。

 

そして彼は以下を付け加えます。

4、当然、AI企業は反対するだろう。僕の会社は反対しないけどね。彼らは、そんな事をしたら進歩が止まるだの、中国へ逃げ出すだの、タワゴトを言いだすだろう。でも実際には彼らはそんな事をしません。ボーイングが米国から出ていったか?出てないですね、アメリカ国内にとどまってます。自動車産業だって同様。
規制をかけると規制のゆるい国外へ逃げる、なんていうのは非常に高慢な態度だと思います。

 

最後にEMが言ったのは:

5、目的は政府レベルでの注意喚起(awareness)です。ひとたび「awareness」が向けられれば、人々は大変な恐怖を覚えるはず。

それ程、深刻な状況なのです。

 

以上
(抜粋画面は動画の1h20m44s辺りから)

 

***

 

以下、完全な私感で大変恐縮なのですが、メディアやビジネス・ニュース等で取り上げられる「AI」は、それいけ乗り遅れちゃいけないビジネスチャンス的に、一種のバズワードとなっています。

でも、この分野の最先端に身を置くEM氏の頭はすでに何光年も先を見据えているかのようです。

イーロン・マスク氏も共同設立者として昨年(2016年)立ち上げられたNeuralink(2016設立)は脳とコンピューターの融合を研究する会社。

どうせこの分野で悪が台頭するのなら、自分たちが先頭を走ることにより、台頭してくる悪を抑え込もうとしているのかもしれません。

 

以上
(抜粋画面は動画の1h20m44s辺りから)

 

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AIは人類にとって現在最大のリスクだ。 イーロン・マスク

AIは人間のやれることは全てできるようになっている。それも人間の能力をはるかに超えるレベルでね。もし、そんな力が自由に使えるとしたら、あなたは何を考えますか? イーロン・マスク

 

***

 

先週(2017年7月13日〜16日)ネヴァダ州で行われたNGA(党派を超えて全米の州知事が集うコンフェレンス)での最終日、テスラスペースXの設立者でもあるイーロン・マスク氏が登場し、その動画がアップされています。

講演の後半では各州知事たちとの質疑応答の時間が設けられ、コロラド州知事から、「AIは現在人類が直面する最大のリスクとあなたは言っているが、それに対して我々は何をすべきか?」と問われた際のイーロン・マスク氏の応えを以下に要約しました;

イーロン・マスク

・まずは現状把握から始めなくてはいけない。大半の政治家はそれを怠っています。

・政府の役割のひとつは、一般の人々の幸福の実現にあると信じている。だから規制が必要なのです。

・昨年、Googleの子会社が開発したAI(Alpha Go)が囲碁の世界チャンピオンを打ち負かしました。囲碁は非常に難易度の高いゲームで、コンピューターが人間を負かすのはまだ20年先と言われていました。今なら世界のトップ50人を同時に打ち負かす事だって可能です。

・すでにロボットは完成の瞬間から二足歩行を可能としています。なんの訓練もなしにね。

・このように、現在のAIの進歩のスピードは脅威的なのです。

・だが、1番の脅威はネットワーク内で活動する「DEEP INTELLIGENCE」です。

 

以下、彼が例として挙げたげた話の概要;

1、仮に投資目的でAIを使ったとする。目的は保有株(もしくはポジション)の価値の最大化。

2、ひとつの方法として戦争を起こす、というやり方がある。

3、手持ちの防衛関連株をロング・ポジション(将来の値上がりを期待)、民需株をショート・ポジション(値下がりを期待)にしておく。

4、そこで戦争を起こす。
Fake Newsを流し、メールアカウントを乗っ取り、Fake プレス・リリースを流すなどの情報操作を行えば戦争は起こせる。

***

ここで彼は「おっと、どうやら墓穴を掘っちゃったね。僕はあくまでも仮定の話をしているだけだよ」と言いながら、引き続き以下の例を挙げました。

2度目のマレーシア航空撃墜事件を覚えてますか?ウクライナとロシア国境地帯で起きた事件です。あれによってロシアとEUの関係は極度に緊張しました。
もし、上記のような投資目的でAIが使われたとしたら、、、」

1、まずはマレーシア航空の飛行ルート・サーバーにハックし、飛行ルートを紛争地域上空に変更する。

2、偽情報で(「anonymous tip」と言ってます)旅客機の真上に敵航空機が飛んでいる信号を送りつける。

そうすれば、後はご存知のような結果となる、と身振りで、、。

(会場はし〜んと静寂。その後、苦笑の声がチラホラ)

****

 

EM、一般には認識されていないリスクの実態を肌で感じているのでしょう。

抜粋の部分は動画の1h16m28s辺りからです。

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