「クリーン革命」 The Clean Disruption – Tony Seba ①前編

 

「Clean Disruption、それはテクノロジーによる革命だ」Tony Seba氏

クリーン革命。それは避けられないし、すでに始まっている。

Tony Seba (スタンフォード大講師)

 

今回取り上げたのはスタンフォード大の講師であるTony Seba氏の講演「Clean Disruption」(2006年にスウェーデンのオスロで開催されたSwede Bank主催のNordic Energy Summitの動画より)。

Seba氏の著書「Clean Disruption of Energy and Transportation」(2014年)に沿った内容ですが、数多くの講演をこなしている方だけあって、大事な事実が非常にわかりやすく解説されています。YouTubeではいくつかの講演の視聴が可能です。現在起きつつあるエネルギーと交通の大変革を解説したものとして非常に優れたものだと思います。詳細をお伝えできるように前編と後編の2回に分けての紹介としました。

注):「Clean Disruption」を正確に訳すれば「クリーン破壊=(リニューアブル・エネルギーによる既存システムの変革)」でしょうか。 

 

■ Disruptionとは?

まずは講演の冒頭部で示された以下の写真をご覧ください。

1900年当時のニューヨーク5番街を行き来する馬車の群れ。自動車が一台走っているのを見つける事ができますか?

1900年のイースターの朝に撮られたNYC 5番街の写真ですが、大通りを行く馬車の列の中に自動車が1台走ってます。見つける事ができますか?

赤く囲まれた部分に車が1台走っていました。

 

13年後、同じ場所を撮った写真が示されます。今度は自動車の波の中に馬車が1台走っています。

1913年のNYC 5番街。車の波の中に1台の馬車。

 

Seba氏:「これがDisruptionです。Disruption自体は目新しい概念ではありません。馬は何千年もの間、我々の交通手段として使われてきました。しかし、たった13年程で都市における交通手段は自動車に取って代わられてしまったのです」

 

Seba氏は「Disruption」を以下のように定義しています。

「新たな製品・サービスによって新規にマーケットが創出される。そして、既存の製品・マーケット・産業の著しい弱体化・変容・破壊をもたらす

 

Seba氏: 「このように今までのDisruptionは、より安くて優れた商品やサービスが登場することによって引き起こされるのがパターンとなっていました」

「ところが、近年のDisruptionには従来とは異なる法則が働いているようなのです」

 

 

■ なぜ専門家は将来予測を誤るのか?

 

話は1980年代に移ります。

「1985年、当時最大のテレコミュニケーション企業であったAT&Tは、自社が開発した携帯電話の将来性に関する予測をマッキンゼー&カンパニーに依頼しました」

AT&Tの開発した携帯電話市場の将来性予測と実際の差は120倍!

「マッキンゼー&カンパニーが報告した予測は、2000年には90万人の契約者が見込まれる、というものでした」

「ところが、実際の1900年度の携帯電話契約数は1億900万人でした。マッキンゼーの予測した数字との誤差は実に120倍でした

「投資を誤ったAT&Tは自社の保有していた陸上電話網からの収益を失うだけでなく、新たに創出された2.4兆ドル市場への参入機会すら逃してしまったのです。現在IT関連のトップ15社にAT&Tの名前を見つけることはできません」

左グラフ:携帯電話契約者数の予測(黒線)と実際(赤色曲線)  右表:テレコミュニケーション関連企業の市場価格順位

この他にもKodak, Nokiaなど、市場を制覇していたような企業が姿を消している例はいくらでも見つかります。

なぜ専門家は将来予測を見誤ってしまうのか?

彼らは往々にして「そんなことは起き得ない」とか「まだ何十年も先の話だ」と、目新しいものを前にした際、往々にして誤った予測を立ててしまうのはどうしてでしょう?

Seba氏は理由を次のように解説しています;

 

「人々は、従来から親しんできたLinear(直線的)な進化は想像できても、近代テクノロジーのExponential(指数関数的)な進化と、それらのConvergence(収束)による変革をイメージする事が苦手なのです」

 

「ムーアの法則に代表されるように、コンピューター・テクノロジーは年間42%、2年で約2倍という指数関数的なカーブを描いて進歩しています。これは10年で1,000倍、20年で1,000,000倍、30年だと1,000,000,000倍です」

ムーアの法則。ICのトランジスターの数は2年で2倍に。

 

コンピュータの分野のみでなく、他に幾つものテクノロジー領域で同じようなExponetialな進歩を見出せます。

 

exponentialな進歩が顕著なテクノロジー領域

 

「Exponentialなスピードで進歩する複数領域のテクノロジー同士のconvergenceにより、人類が今までに経験しなかったようなスピードと規模の変化がもたらされるのです。シリコンバレーが多く領域でDisruptionを引き起こす理由がここにあるのです」

 

「iPhoneとアンドロイドが同じ年に発売になったのは、テクノロジーのconversionによりスマートフォンの市販が可能となったのがまさにその時期だったからです」

 

Seba氏が示す2016年時点でexponentialな進歩が顕著なテクノロジー領域は以下。

exponential な進歩が顕著なテクノロジー領域(2016年度)

 

■「Clean Disruption」

Seba氏: 「それでは、ここからはエネルギーと交通の分野にフォーカスして話を進めていきます」

4つの領域でのexponential 進歩とconvergenceが「Clean Disruption」を引き起こす。

以下の4つの領域のconvergenceが「Clean Disruption」を引き起こすます。

  1. エネルギーのストーレージ(リチュウムイオン・バッテリー)
  2. EV
  3. 自動運転車
  4. ソーラー

 

後編では、それぞれの領域で何が起きているのか、それらのconvergenceが引き起こす「Clean Disruption」とはどんなものなのか、詳細に見ていきたいと思います。

 

XX

後編を見る

 

 

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プーチン大統領:「AIを制するものが世界を制覇する」

AIを制するものが世界を制覇する。AIがもたらす未来には無限の可能性と予測不能の脅威が潜んでいる。

V.プーチン

 

9月1日、新学期を迎えたロシアの学生たちに向けた公開授業が衛星中継を介して放映されました。

壇上に登場したプーチン大統領は学生たちに向けて「AIが未来を切り開く」と発言

「AIが未来を切り開く。一番最初にマスターした者が世界を牛耳ることになるでしょう」

「AIが切り開く未来はロシアのみならず、全人類がその恩恵に授かるべきです。途方ない可能性とともに、そこには予測不能な脅威が潜んでいます。この分野のリーダーとなる者が世界を制覇するでしょう」

さらにプーチン大統領は「この力(AI)が何者かに独占されてしまうのは望ましくありません。もしロシアがリーダーとなれば、私たちはノウハウを全世界と分かち合うつもりです」

45分間のセッションの中で(学校の授業の一環として放映された)、プーチン大統領は宇宙、医学、人間の脳の可能性に関するディスカッションを行い、特に認知科学の重要性を指摘したそうです。

「眼球の動によってコンピューターを操作する事が可能となるかもしれない。さらには、宇宙空間も含め、極限状況下における人間の行動分析なども可能です。これらの領域における研究は無限の可能性を秘めています」

この日のオープン・クラス放送には16,000の学校から生徒や教師が参加し、トータルの視聴者は100万人を超えたそうです。

AI分野でのイニシアチブを睨みながら、自国の学生たちを鼓舞して優秀な研究者の育成に注力しているのが伺えるようですね。

https://youtu.be/fnJinlR-XTc

 

この放送の後、Elon Musk氏はTwitterで以下のようつぶやいています。

以下、イーロン・マスク氏のつぶやき意訳:

「やはり始まったね」

「中国、ロシア、さらには、優秀なコンピューター・サイエンスを有するすべての国々がこの競争に近く参入してくる。AIの優位性を巡っての国家レベルでの競争が第三次世界大戦の引き金となる可能性が非常に高い。僕はそう見ている」

 

上のツイートへの回答としてマスク氏は、「国家のリーダーの意思によって戦争が起きるとは限らない。どこかのAIの判断で<先制攻撃が勝利への最良の手段>という解が選択される可能性もあり得る」とツィートしています。

彼は以前にも「AIによる自動化された兵器は、戦争における第3の革命だ。最初は火薬、次に核兵器、そしてAIにコントロールされた自動兵器と指摘していました。

 

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Khan Academy – 第一次世界大戦にアメリカが参戦した理由 – 後編

カーン・アカデミー主宰のS. カーン氏

カーン・アカデミー動画:「世界史-20世紀-アメリカの第一次世界大戦参戦」から、アメリカが参戦した理由の考察 (後編)。

 

前編では、アメリカの参戦理由の考察をしました。

今回は、議会で参戦を訴えるウィルソン大統領の演説と、参戦に反対の意を唱えたG・ノリス上院議員の演説内容にスポットを当てます。

まずは前編で解説されたウィルソン大統領の演説内容の要約の確認から;

1、ドイツ潜水艦による無差別攻撃への非難

2、ツィンメルマン電報

3、全人類の民主主義の守り手として戦う義務がある

以上が参戦を促す理由でした。1の「潜水艦による無制限攻撃によって多数のアメリカ市民が死亡した」という事実と、特に3の「民主主義を守るため」という部分を何度も強調しています。

原文; https://www.khanacademy.org/humanities/world-history/euro-hist#american-entry-world-war-i

 

 

次に、議会でアメリカの参戦反対を唱えたジョージ・ノリス議員の演説を詳細に見てみます(意訳にて要約を書き出しましたが、ニュアンスの確認等を含め、機会があればぜひ原文もご確認ください。原文; https://www.khanacademy.org/humanities/world-history/euro-hist/american-entry-world-war-i/a/1917-speech-by-senator-george-norris-in-opposition-to-american-entry )

 

以下、ノリス議員の演説の要約;

ノリス議員は冒頭で「参戦には反対するものの、決議で参戦となれば喜んで祖国のために尽力する」と自身の決意を表明してから参戦反対の意を唱えます。

1、ウイルソン大統領が参戦の理由とされたドイツ潜水艦による無制限攻撃によるアメリカ市民の犠牲と、ドイツが設定した交戦海域(war zone)が国際法上違法であるという主張だが、最初に交戦海域の設定を宣言したのはイギリスである。

  • イギリスは1914年11月4日に交戦海域を宣言。実効を翌日の11月5日からとした。海域は北海全域であった。
  • 翻ってドイツの交戦海域の宣言は 1915年2月4日。イギリスの宣言から3ヶ月後であり、実施は15日後の2月18日からであった。
  • ドイツの設定した交戦海域はイギリス海峡周辺とブリテン諸島周辺公海にみだった。
  • 本来アメリカは、両国が国際法に違反していると抗議できるにもかかわらず、イギリスの主張する交戦海域は認め、ドイツの主張は違法であると非難をしている。実際は両者とも国際法に違反している。

 

2、アメリカの選択肢は3つ

  • イギリス、ドイツ、両国とも国際法を違反しているのを理由に、両国に宣戦布告をする。
  • 正義の解釈を歪曲し、一方を拒絶し、他方を黙認する。
  • 両国が国際法違反をしているのを非難しながらも黙認し、中立の立場を維持。アメリカ船籍の船主たちには自己責任でこの海域を航行する旨を警告。

 

3、G・ノリス議員が提案した「4つ目の選択肢」

  • まずアメリカは両国に対して禁輸処置を施行する。
  • イギリスは程なくして物資不足となり、アメリカの説得に応じて北海からの機雷撤去の勧告を受け入れるであろう。
  • ドイツ側の北海に面した港が使えるようになれば(イギリス側の機雷による封鎖が解除されるので)、アメリカからの物資を受け入れることが可能になる(当時アメリカはドイツ側とも貿易や融資を行なっていた)。そのためには潜水艦による無制限攻撃の停止を条件とすれば、ドイツはこれを承認すると推測される。

 

4、偏見と利権−国民は誤った方向に導かれている

  • 多大なる数のアメリカ国民が戦争に参加する義務があると信じているようだ。だが、この戦いの中でイギリスもドイツも同程度の非人道的な行いをしている。同情心と金銭欲が人の判断を誤らせる。
  • 我々が当初から厳格に中立性を維持できていたなら戦争参加の瀬戸際に立つことはなかったであろう。
  • イギリスの主張する交戦海域は認めながらドイツの主張は違法だと非難するのは、アメリカが中立国の立場を捨て去ることを意味する。

 

5、アメリカの中立維持を望まない層の存在

  • アメリカには自国の中立維持を望んでいない層が存在する。彼らは参戦による利益機会を狙う利己的な人々だ。
  • これらの権益層が参戦を推進している。
  • 多くの実直で愛国的な国民は欺かれ、この真実を知らない。ドイツとの戦争を開始するべきだと信じこまされたままに大統領を支持している。
  • この戦争で我々は連合軍側に莫大な融資をしている*。投資利益の最大化を狙い一般国民のセンチメントを参戦に向けて操ろうとする階層が存在しても不思議ではないはずだ。
  • 国民感情を参戦の機運に向かわせる目的で、彼らは多数の大新聞やニュース・メディアをコントロール下に置き、前例のないほどの規模でプロパガンダを展開している(a large number of the great newspapers and news agencies of the country have been controlled and enlisted in the greatest propaganda that the world has ever known to manufacture sentiment in favor of war.)
  • これはアメリカ国民を総動員して軍需物資を紛争諸国に送り届けるための決議だ。参戦となれば、武器製造業者やウォール・ストリートの投資家たちにはさらなる利益が舞い込むことになる。
  • このように、大統領は人為的に操られた国民感情をバックに議会に参戦を呼びかけている。

 

6、証券会社(ウォールストリート)の市場予測の紹介

ノリス議員はここでニューヨーク証券取引所の会員が投資家に宛てた報告書(市場動向の予測)を読み上げます。

  • 市場は参戦を好機と捉えてる。
  • 日本、及びカナダは参戦によって未曾有の好景気の波が押し寄せている。
  • 参戦と同時に株価高騰が予測される。
  • 中立維持の場合は経済は停滞するだろう。
  • その際には戦争に向けた準備や軍備増強への投資が、実際に参戦した際に期待された利益分の補完となるであろう。

 

7、何のために、そして誰のために戦う戦争なのか?

  • 月給$16でライフルを担いで塹壕に伏せ命を捧げる兵士でもなければ、戦死した夫を持つ未亡人でもない。息子の死を嘆く母親でもない。寒さや飢えに苦しむ子供たちでもない。 戦争は大多数の愛国的で一般な市民には何の繁栄ももたらさない。
  • 戦争はウォール・ストリートのギャンブラーたちに恩恵をもたらす–彼らはすでに巨万の富を手にしているのだ。そして彼らは戦争になったとしても自らが塹壕に伏せる階層ではない
  • 戦争や軍備増強は金儲けの手段となっている。人の命を犠牲にすることをウオール・ストリートは意に介さない。犠牲となる人々は、ここで得られる莫大な利益とは無縁の階層だ。
  • ウオール・ストリートの連中が徴兵されることもなければ、ましてや兵役に志願することもないだろう。
  • この決議でアメリカが参戦することになれば幾万もの国民や同胞の犠牲を強いる結果を招く。

 

*参考資料:第一次世界大戦に参戦する前のアメリカの融資額: 大戦当初、アメリカの紛争諸国への輸出量は開戦以前の3倍に膨れ上がっていた。ほどなくしてイギリス・フランス連合国の資金は払底しアメリカの融資が始まった。1917年度のアメリカの対イギリス・フランス貸付額は 約22.5億ドル。対ドイツ融資は2,700万ドル。対イギリス・フランス融資額と対ドイツ融資額の比率は83:1。出典:http://www.digitalhistory.uh.edu/disp_textbook.cfm?smtID=2&psid=3476

***

 

カーン・アカデミー主宰で動画のナレーターでもあるS・カーン氏はここで視聴者に向かって「ウィルソン大統領と、反対を唱えたノリス議員の演説原稿の全文をサイトに掲載してあります。是非、是非、是非(「I highly, highly, highly recommend~」と3回も繰り返し)とも読み比べることを勧めます。そして自分自身で判断してください」と強く訴えています。

 

以下は私見ですが、ウィルソン大統領の唱える「自由を守る」「民衆主義を守る」「世界の人民のために戦う」という勇ましいスローガンと、ノリス議員の「戦争で権益を享受する階層が戦争を推進している」という訴えを見比べると、すでに第一次世界大戦から100年ほどの年月を経てはいますが、今の世界の状況との類似点を見出せるように思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

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Khan Academy – 第一次世界大戦にアメリカが参戦した理由 ー 前編

奥の男性がカーン・アカデミー主宰のS. カーン氏

カーン・アカデミー動画:「世界史-20世紀-アメリカの第一次世界大戦参戦」から、アメリカが参戦した理由の考察 (前編)。

 

引き続き、カーン・アカデミーの教育動画の紹介です。

今回は「世界史・20世紀・アメリカの第一次世界大戦参戦(United States enters World War I / The 20th century / World History /)」を取り上げます。

非常に濃い内容なので前編と後編の2つに分けての紹介です。

1914年に始まった第一次世界大戦当時、アメリカはイギリス・フランスの連合国側へ多大な援助はしていたものの、ヨーロッパにおける戦争に直接参加することからは距離を置き中立の立場をとっていました(枢軸側へも若干の援助をしていました)。

1916年に第28代アメリカ大統領として再選を果たしたW・ウィルソンは、選挙時の公約であった<ヨーロッパの戦争への不参加>から立場を一転、1917年4月2日に開かれた議会にてアメリカの参戦を呼びかけます。

結果は民主党・共和党の枠を越え開戦賛成派が大多数を占め、2日後に決議通過、6日にはアメリカはドイツに宣戦布告をします。

ウィルソンの演説内容は、それまでヨーロッパでの紛争から距離を置いてきたアメリカが参戦しなければいけない理由を述べています。

その理由は;

1、ドイツ潜水艦による無差別攻撃。1915年のルシタニア号事件(イギリスの客船ルシタニア号がドイツ潜水艦によって撃沈され、128人のアメリカ人乗客が死亡)が有名。

2、ツィンメルマン電報事件。1917年、ドイツ帝国の外務大臣ツィンメルマンがメキシコ政府に送った暗号文書がイギリスに傍受された事件。内容は、アメリカが参戦した場合にドイツとメキシコが同盟を結びアメリカと戦い、戦争勝利後にはアメリカの領土を分割する提案だった。これがイギリス側に傍受されアメリカ政府に伝えられ、アメリカ国内の新聞等で発表された。

3、ベルギー侵攻でのドイツ軍による残虐行為(Belgium Atrocity)。1914年の開戦当時、ドイツはフランス侵攻に先駆けて中立国であったベルギーを侵攻。その際にドイツ軍による民間人への残虐行為があったされた。イギリスはこれをアメリカ国民の感情を参戦に向かわせるためのプロパガンダとして使用した。

4、ウィルソンが最も力説したのは、民主主義のために戦うというイデオロギーによる国民感情の鼓舞だった。枢軸側であったドイツ帝国もオーストリア・ハンガリー帝国も専制君主制の国家だった。連合軍側は、イギリスは王政ではあったが実態は民主主義制の形をとっており(英連邦の中で投票権のある国民にとっては)、フランスは民主主義国家であった。よってウィルソンは「アメリカが戦うのは人民のため」という大義を掲げた。

この後カーン氏は「では、別の角度から少々シニカルな見方も考えてみよう」とギアを切りかえます。

ここでは、アメリカが参戦した理由として以下の事実に焦点が当てられます;

1、イギリスとアメリカの間には金融面での強い繋がりがあった。1913年にウイルソンが承認して設立された連邦準備銀行が中心となり、アメリカはイギリス・フランスに莫大な融資をしていた。

2、イギリスによる非常に効果的なプロパガンダ展開。アメリカ国民の参戦へのセンチメントを高める目的でイギリスはアメリカ国内で盛んにプロパガンダを展開しました。ツィンメルマン電報事件や、ベルギー侵攻でのドイツ軍による一般市民への残虐行為や、ルシタニア号事件を祝うドイツ国民の様子を伝え、アメリカ国民にドイツに対する怒りを植え付けることに成功(ベルギー侵攻時の残虐行為は事実とされるが、ルシタニア号撃沈を喜ぶ一般ドイツ国民というのはイギリス側の捏造報道であったとしている)。

3、戦争で利益を得る層からの議会に対する(参戦を促す)ロビー活動。カーン氏はここで「すべての戦争がそうであるように、戦争の真の目的がここにある。アメリカが参戦すれば、兵器や軍需物資の大量注文が舞い込んで儲ける層が存在する。さらにはウォール街の投資家たちだ。すでに彼らは巨額の資金を連合国側に貸し付けていたので連合国側が負けると大損をすることになり、彼らはそれを避けたかったのだ」と解説しています。

カーン氏はこのあと、ウイルソン大統領の議会演説と、当時の議会では少数派となった参戦反対の意を唱えたG.ノリス上院議員の演説内容の比較しています。

これも非常に興味深い内容なので、よろしければ引き続き後編もご覧ください。

–以下、後編へ−

 

 

 

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アメリカが戦争を起こす際のパターン分析 ー カーン・アカデミー教育動画「世界史 / 20世紀」より

カーン・アカデミー、「冷戦期におけるアメリカの軍事介入のパターン分析」動画紹介

 

カーン・アカデミーの教育動画が優れていることをご存知の方は多いと思います。

3,000本以上存在する閲覧無料の動画クリップは数学や物理にとどまらず、化学・芸術から金融など、多岐にわたる分野がカバーされてます。

今回は歴史の分野からの紹介。

正式には「世界史−20世紀−冷戦期のアメリカ軍事介入パターン(Patten of US Cold War interventions / The 20th century / World history /)」

世界史−20世紀の歴史~ではこの動画以前にも、冷戦(Cold War)朝鮮戦争キューバ・ミサイル危機ピッグス湾事件ベトナム戦争などが詳細に解説されています。

ここではその総集編として、それぞれの軍事介入に共通するパターンに関する言及がなされています。

冒頭にカーン・アカデミーの主宰者であり、大半の動画のナレーションを自ら執り行っているサルマン・カーン氏の言葉が素晴らしいです。

「いいかい、歴史を学ぶ際には事実とされている事柄も含め、全てを疑ってかかるように。 この動画で僕が言う事も含めてね! なぜなら歴史とは生き残った者によって編纂された記録だ。実際には裏で何が起こっていたかは誰にも分からない。

「大事なのは、その説明に納得できるか、ということ。だから僕が今からここで言うことをただ鵜呑みにしてはいけないよ。自分の頭で考えて納得できればそれで良い。そうじゃなければ納得できる解釈を自分自身で探し出すことが大切なんだ」 

 

この動画で彼が解説している内容を以下に要約してみました。

ここでは朝鮮、キューバ、ベトナムを事例に、冷戦期のアメリカの軍事介入のパターン解説がされています。

1、アメリカの軍事介入が始まる以前、これらの国はすべて他国によって占領状態、もしくは隷属状態にあった。ex) 朝鮮は実質的には日本の植民地だった。キューバはバティスタ政権の独裁体制下にあったが実態はアメリカの植民地状態だった。ベトナムはフランスの植民地だった。

2、その状況下では支配層や、それらと癒着して潤う少数の特権階級と、搾取される大多数の一般国民というふたつの階級に分断される。当然、一般国民の体制や政治に対する不満が高まる(真っ当なやり方で財を築く者も存在はしていたが、とも述べられています)。

3、すると独立運動への機運が芽生える。「宗主国や、ひと握りの特権階級に独占されている富を公平に社会に分配しよう!それが社会正義である!」–この考え方は共産主義のイデオロギーとピッタリ一致する。

4、キューバではフィデル・カストロ、ベトナムではホー・チ・ミンが独立運動の推進者として登場。朝鮮は多少事情が異なっており、すでに共産主義者による独立運動は存在していた。キム・イル・ソンはリーダーというよりも、当時共産主義運動をバックアップしていたソ連による後押しが強かったと思われる。

5、そして彼らは企業を国有化し、私有財産の没収と再分配などを標榜する。すると外国企業やそこで私財を築いていた特権階級が駆逐されることになる。

6、欧米の大資本にとってこれはマイナス。また、地政学的にアメリカがソ連に敗退することを意味するので「オーケー、じゃ方程式の反対側に立って力を均衡させなきゃ」とばかりに朝鮮ではシングマン・リー、ベトナムではディエム政権、キューバでは当初はバティスタ、そしてキューバ亡命者を支援して共産勢力との戦いを推進しようする。これらの人物はどれも皆あまり人望があるとは思われない連中だった。

7、ここでSK氏の個人的見解が挿入されます: ケネデイー政権当時、政策決定のためにケネディー側に提供されるキューバのカストロに関するアメリカの内部情報はかなり歪められていたように思える。実際のカストロは非常に人気があり、彼が行なった経済政策も富の再分配を実現していた。

8、以上、冷戦期のアメリカの軍事介入には共通するパターンが見受けられる。そのどれもが失敗、もしくは膠着状態のままで終わっている。ここで得られる教訓は重要だ。

***

SK氏はかつてMITで数学とコンピューター・サイエンスを専攻し、その後ヘッジ・ファンドのアナリストの職に就いた経験のある人。そのせいか、ここでの歴史分析もちょっと数学的な香りを感じます。

教科書的な史実の無味乾燥な暗記に始終するのではなく、背景に流れていた人々の思惑のようなものを把握しようとするアプローチは、より豊かな教養として歴史を認識できるように思います。

他にも興味深いコマがザクザク見つかりますので、ぜひチャンスを見つけてもう2〜3編の紹介してみたいと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

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Khan Academy  ー オンライン教育サイト成功の理由

Khan Academy 主宰のS.カーン氏

シリコンバレー発の教育動画サイト、Khan Academyが成功した理由。

 

ご存じの方も多いかと思いますが、サルマン・カーン氏が主宰するカーン・アカデミーは、閲覧無料な上に大変優れたコンテンツを展開している素晴らしいオンライン教育サイトです。

例として添付したのは数あるコマの中から数学の「微分という考え方のイントロ」を解説している動画。

http://www.khanacademy.org/video?v=EKvHQc3QEow

 

6,000本以上ある教育動画シリーズは世界中で閲覧されており、ここで添付した動画も100万ビューを超えてます。

そもそもの発端は、創設者のサルマン・カーン氏(インドの人気映画俳優とは別人)が、数学で悩む従兄弟の勉強を見てあげている際、YouTubeに自身で制作レクチャー動画をアップしたのがキッカケとなり、それが瞬く間に拡散していくうちにKhan Academyの誕生となりました。

 

当初は試行錯誤から始まった「オンライン家庭教師」

一番最初はスカイプ等でPC画面を通じての教えを試みたそうですが、そこでは期待した成果が得られませんでした。

理由は、オンラインで繋がりながら画面の向こう側とこっち側で学習を進める際、カーン氏は生徒がどこまで理解しているのかを把握できないままにレクチャーを進めなくてはいけませんでした。時には生徒はカーン氏に遠慮してしまい、「解らない」と言い出せないままにレクチャーが進んでしまいました。結果的には生徒の理解の度合が不完全なまま、レクチャー時間が過ぎてしまっていたのです。

そんなある日、友人から「YouTubeを試してみたら?」というアドヴァイスを受けて自主制作のレクチャー動画をアップ(カーン氏はMITでコンピューター・サイエンスと数学を専攻)したところ大変効果があがるのを実感します。

「当時の僕はYouTubeなんて、猫がピアノ弾く動画とかばかりの取るに足らないメディアとしか捉えていなかったんだけどね」とカーン氏は語ってます。

 

上手く行った理由;

1、当時YouTubeの規定では動画の長さは10分以内という制限があった。それが功を奏した。
①結果的に、要点を簡潔にまとめたコンテンツとなった。
②人の集中力の持続時間は15分程度が限度。各コマが、集中力維持ができる理想的な長さに収まった。

2、生徒の心理面でのメリット。
YouTube動画なら、生徒は解らない場合は動画を止めたり、戻したり、再生したりできる。
ここでは先生の顔色を伺う必要がない。よって生徒は心理的な負担から解放される。
実は「良い子」ほど、先生の期待を裏切らないようにと失敗を恐れて無理(不完全な理解のまま先に進もうとしてしまう)をする。

***

 

彼がYouTubeにアップした動画は従兄弟のみでなく、世界中に拡散を始めます。ほどなくカーン氏はそれまで勤めていたヘッジ・ファンドを辞して天職を掴みます(「収入は良く、生活も安定していたけど、ヘッジ・ファンドでの日々は惨めなものだったよ」と後のインタビューで彼は語っています)。

 

ビル・ゲイツの熱心な後援

実はかのビル・ゲイツ氏もカーン・アカデミーの熱心な後援者の一人です。

カーン氏: 「スタート当初、知人から『ビル(ビル・ゲイツ)が自分の子供に算数を教える良い方法がないものかと探している、という話を聞いて君の動画を紹介しといたよ。もし彼が気に入れば応援してくれるんじゃないかな』と言われた。彼(ビル・ゲイツ)は一日中膨大な量のデシジョン・メイキングを行っているので、普段ならオーケーかノーか、瞬時に返事がくると聞かされていたんだけど、その時はなかなか返事がなかったんだ。実は、ビル本人が動画レクチャーのシリーズに1日中見入っていたことを後で聞かされて嬉しかったよ!」

ゲイツ氏は即座にカーン氏と面会し、このサイトの将来についてヒアリンをし自身の運営するゲイツ財団として何ができるかを相談したそうです。以来、彼はカーン・アカデミーの熱心な後援者となりました。(ビル&メリンダ・ゲイツ基金からカーン・アカデミーに寄贈された金額も現在では 1,000万ドルを超えています)

 

カーン・アカデミーを推薦するビル・ゲイツからのメッセージ動画

僕自身、今でも何かを確認する際にこれらの動画を見るし、自分の子供たちもこのサイトで学ぶことが大好きなんだ」

「これは人々に対する莫大な贈り物だと思う。みんな是非チェックするべきだよ!」

(ビル・ゲイツ)

 

 

学校教育が産み出す「スイス・チーズ症候群」

YouTubeを使ってのレクチャーが優れているポイントをカーン氏は以下のように説明しています。

「この方法は理想的な個別指導なんだ。学習者の理解レベルに合わせ、基礎を100%理解するまで繰り返して学べる。高度に洗練された数学を理解しようと思うなら、基礎の積み上げによる学習が欠かせないんだ」

「でも学校教育では、テストで90点取れば優秀とされて次の段階に進んでしまう。それはスイス・チーズのようなもの。外見は完璧に見えても、中身にはいくつもの穴が空いたままだ」

「ミスした10点部分の理解がなされないまま先に進むことで、いつしか数学の壁につきあたる。そこでは後戻りや確認するチャンスもない。カリキュラムは先へ先へと進んでいく。すると優秀であったはずの子供も、いずれは『数学嫌い』となってしまう」

***

 

動画の設定を開くと気がつくと思いますが、いろいろな国の言葉に字幕部分が翻訳されています。シリーズが世界中で認められている証しでしょう。

日本でもこの動画シリーズの翻訳ボランティアを募集して運営している日本語版サイトもあります(東南アジアや東欧圏諸国に比較して、まだまだ規模は小さいようですが)。

でも実は、カーン氏の声と喋りこそが価値の源泉だと思います。

まるで生徒の横に一緒に座っているような感じの親みや温かみを持ちながら、理路整然と明瞭に解説がされていく彼の語りの真髄は、事務的な翻訳ではなかなか再現が難しいように思いました。

***

数学のみでなく、彼の解説による金融・経済や歴史も面白いので、おりををみてまた紹介したいと思います。

 

 

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