テスラがEV車で成功した理由 (前編) ー Marc Tarpenning

Tesla 共同設立者 Marc Tarpenning

脱・石油 – それこそがテスラを起業した理由なんだ。

Marc Tarpenning – テスラ共同創業者

 

2018年現在、アメリカでは「世界で最も重要な自動車会社」とまで言われるようになったテスラですが、今回は創業者のひとりであるMarc Tarpenning が解説するテスラ成功理由の分析です。

今回は内容が濃いので、前編「なぜEVを製造することにしたのか」と、後編「誰がEVを買うのか」の2部構成にての解説になります。2017年に実施されたProduct Leader Summit にてMarc Tarpenning が行なったプレゼン動画を基にしています)

 

***

 

次のビジネスは世の中の問題を解決する事!

テスラは、Martin Eberhard とMarc Tarpenningという2名のエンジニアによって2013年にシリコン・バレーに設立されました。

彼らはそれ以前にRocket eBookという、現在のタブレット端末の祖先となるようなデバイスを用いて本が読める電子書籍サービスを開発し、2000年にその会社を$187,000,000で売却します。

潤沢な資金を得た彼らが、次なる事業を手がける際にまず最初にやったのは、現在人々が直面している諸問題を列挙することでした。それらは;

「世の中は深刻な問題に満ち溢れている」
  • 水不足
  • 環境
  • 資源枯渇
  • 農産物生産
  • アメリカにおける格差の拡大
  • 世界の貧困問題

そして選ばれたのが石油でした。

 

石油こそが諸問題の根源

なぜ石油が諸問題の筆頭として選ばれたのかをMark Tarpenning(以下、MT)は以下のように説明しています。

「石油 - それは問題の宝庫!」

MT:  「石油ってスゴイんだよ! だってあらゆる問題の宝庫だからね」

「ざっと挙げると、CO2排出による環境問題、資源の利権をめぐっての政治問題や安全保障の問題、エネルギー資源の枯渇。つまり石油への依存が解消されれば、これらの問題すべてが劇的に改善されるということなんだ」(相方のMartin Eberhardもあるインタビューで「僕は当時のブッシュ政権の外交政策に大いなる不満を抱いていた。脱・石油エネルギーを次の目標に選んだ理由のひとつがそれだった」と述べています)

石油消費の7割はクルマによるもの

「そこで僕らはアメリカで消費されている石油の内訳を調べて見た」

「石油消費の主役はクルマ」 Mark Tarpenning のプレゼン資料より

「約70%が交通・運輸の燃料として消費されており、そのうちの50%が乗用車やピックアップ・トラックの燃料として消費されていたんだ」

「脱・石油依存を目指すなら、まずは乗用車市場に目を向けるのが自然の成り行きだった」(注:テスラはシリコンバレーで起業された初の自動車会社となりました)

以下、動画でMTがプレゼンする流れに沿って解説していきます。

 

EV – その他オルタナティブとの比較

「マーチン( 協同経営者のMartin Eberhard)も僕も、電気自動車こそがその解決策だと確信していた」

「そして僕らは、電気以外の代替エネルギーで走る方式の自動車との比較検討を徹底的に行った。せっかく起業しても、もっと優れた方式の競合相手が出現してしまえば市場で敗退してしまう。そんな事は誰だって避けたいからね」

以下は石油以外の代替エネルギー候補として挙げられたもの;

「化石燃料以外の選択肢は?」 ガソリンエンジンの代替となる動力源の候補
  • バッテリーと電気モーター
  • バイオ・ディーゼル
  • クリーン・ディーゼル
  • 圧縮天然ガス
  • エタノール
  • ハイブリッド
  • 水素エンジン
  • 水素燃料電池
  • メタノール
  • 充電併用ハイブリッド
  • 太陽電池とモーター

 

FCV(水素燃料電池車)

MT: 「覚えているかな?この時代(2003年頃)、FCV(水素燃料電池車)が盛んにもてはやされ投資がこの領域に集中していた」

「だから僕らもFCVは特に注意深く吟味したんだ」

「燃料電池はどうだろう?」 FCV(水素燃料電池車)の概念図。水素を電池内部でイオン化させることによって電気を作り出す。水素自体は単体で自然界に存在しないため水素ガス生成には膨大なエネルギーが費やされることになる。
FCVとEVの効率比較。FCVの場合、電気エネルギーから水素ガスを得る段階で最善でも25%にまでエネルギーが減少。EVは85%にとどまる。

でもFCVの効率は最もオプティミスティックな理論値で計算したとしても、せいぜいEVの1/3程度だという事が判明した。

その上、水素を供給するスタンドを世の中に広めるためには膨大なインフラ投資が必要になる。

そんな非効率なものが日の目を見ることなんてあり得ない、というのが僕らの結論だった。

from ‘Inside EVs’ Hydrogen vs. EV   EVとFCVのインフラの比較ー圧倒的にEVの方がシンプル!

 

エタノール燃料車

もうひとつがエタノール燃料だ。

特にバイオマスによって生産されるエタノールに注目が集まっていた。

「エタノールはどうだろう?」 エタノール車の場合の効率はEVの約1/2

エタノール車の効率はEVの半分程度だった。でもバイオマスからエタノールを生産する複雑な過程を経るよりも、原料(家畜の糞や木材等)をそのまま既存の火力発電所で燃やして発電しても効率は同等なんだよ!

よってバイオマスによるエタノール生産にも将来性などは見いだせなかった。

トウモロコシを原料にしたエタノール生産の考察

さらにアメリカは、エタノールの原料としてトウモロコシを栽培する唯一の国なんだ。それも調べてみた。

交通エネルギーの50%をエタノールで賄う場合に必要となるトウモロコシ畑の面積(CIA資料)

上の図は交通エネルギーの50%をエタノールで賄う場合に必要となるトウモロコシ畑の面積なんだけど、これを実施するとなると他の農作物を作る余裕がなくなる。するとアメリカは自国で必要な食料を100%輸入に頼らなくてはいけなくなる。

当然こんなのは問題外だった。

「セルロース エタノールはどうだろう?」 Switch Grass(雑草の一種)を用いたCellulosic Ethanolの場合の考察。

Switch Grass (雑草の一種)から生成されるセルロース・エタノールはどうだろう? 必要な栽培面積はトウモロコシの1/4ほどに改善されるけど、それでもまだ大幅な食料の輸入が必要となる。

 

耕作地と同じ面積に太陽電池を設置したら?

でも、トウモロコシ栽培に必要とされる耕作面積に市販の太陽電池を設置したらどうだろう? そこで作られた電気をEVに充電して走らせれば、なんと32倍もの航続距離が得られるんだ。

つまり、たとえ今後どんな新技術が登場しようとEVの敵ではないという結論に僕たちはたどり着いたんだよ。

「Well to Wheel Efficiency」 燃料が採掘されてから動力になるまでの間の効率比較。グラフ左下がガソリン。効率の悪さに注目。

ちょっと付け加えておくと、たとえEVの電気を全て石炭による既存の火力発電で賄ったとしても、それでもまだエネルギー効率は現在のガソリン車より良いんだよ!

(以下後編)

***

 

2018年1月現在、世界のEV化に向けてのシフト・スピードは日々加速しているようです。でも2013年当時、EVなどは一般には注目されていない領域でした。

マーチンとマークの2人のエンジニアがEVの将来性に目を向けた理由は、「世の中の問題をテクノロジーで解決する」という非常にポジティブな精神に基づいたものでした。

金儲けや数字のゲームに明け暮れる経営者や起業家たちと一線を画す彼らの立ち位置に気がつくと思います。

人々がテスラに惹かれるユニークネス、実はこんなところに根源があるではないでしょうか?

単なるプロダクトではなく、所有することで希望ある未来が目の前に広がっていくような気持ちになれる − テスラ・オーナーはそんな想いを共有しているのではないでしょうか?

後編「EVは誰が買うのか?」にて、人々の「想い」の部分をどのようにしてデザインしていったのかを解説してみたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

XXX

後編に進む→

Please follow and like us:

「クリーン革命」 The Clean Disruption – Tony Seba ②後編

Tony Seba      https://tonyseba.com

2030年までに、すべてのエネルギーと自動車・交通システムは根底から変革される。

Tony Seba(スタンフォード大講師)

 

前編ではテクノロジーのexponential(指数関数的)な進化と、それらの convergence(収束)が現代のDisruptionを引き起こす話をしました。

後編ではエネルギーと交通の分野において、それそれのexponentialな進化と、それらのconvergenceがどのような Disruptionを引き起こすのかを詳細に見ていきます。

 

 

■「Clean Disruption」を支える4つの領域
「Clean Disruption」を支える4つの領域でのexponential 進歩とconvergence
  1. エネルギーのストーレージ
  2. EV
  3. 自動運転車
  4. ソーラー

1、エネルギーのストーレージ

■リチュウムイオン・バッテリーの需要拡大がコスト・ダウンと性能の向上を加速している

Seba氏: 「リチュウムイオンバッテリーのコストは1995年から2010年頃までの15年間にわたって毎年14%ずつ安くなっていました」

「2009年頃を境に自動車業界とエネルギー業界がリチュウムイオン・バッテリーをストーレージとして使用し始めると、需要と投資の拡大によって2010年から2014年のコストカーブは年間16%減に向上しました。最近はさらにそれが加速されています」

2009年頃を境に自動車とエネルギー・ストーレージにリチュウムイオン・バッテリーが使われ始めるとコスト・ダウンのスピードは年間-14%から-16%に加速された

そのコスト・カーブのイメージは以下のグラフになります。

リチュウムイオン・バッテリーのコスト・カーブ

リチュウムイオン・バッテリー以外の他の方式を試みても、このコスト・カーブを凌駕するものでなくては淘汰されてしまいます。

 

TeslaのGiga Factory。この工場一つで世界で生産されていたリチュウムイオン・バッテリーの総量を上回ってしまう
米ネヴァダ州に建設中のテスラのギガ・ファクトリー。

2017現在、テスラがネヴァダ州に建設中のギガ・ファクトリーが完成すると、この工場ひとつの生産量それまで世界で生産されていたリチュウムイオン・バッテリーの総量を上回ります(まだ完成はしてませんがすでに稼働を開始しています)。

原料のリチュウムはネヴァダ州周辺で採掘され、そのまま工場に運び込まれてバッテリーが製造されます。それは同じ工場で生産されるTesla Model3に搭載されて完成車となり出荷されます。

原料の加工から最終的な製品であるEVの出荷までをワン・ストップで行うことによるコスト・ダウン効果は約30%〜50%。

さらにはバッテリー性能も毎年5%づつの向上が期待できるとイーロン・マスクは公言しています。

テスラと、それ以外の企業も含め、大規模な工場が世界各地で建設されつつあります

 

Tesla Power Wall / Power Pack。 すでにコスト・カーブ予想を上回る性能を実現している

加えて、Teslaが販売する個人宅用のバッテリー・ストーレージPower Wallは$350/kWh 、業務用のPower Packになると $250/kWhを実現しており、Seba氏のコスト・カーブ予想を上回る性能をすでに2016年時点に実現しています。

 

 

■ ストーレージ・サービス  新たなビジネスモデルがDisruption をもたらす

リチュウムイオン・バッテリーのコスト・ダウンと性能向上は新たなビジネス・モデルによるDisruptionを生み出します。

リチュウムイオン・バッテリーによるストーレージ・サービス。ピーク時の電力をストーレージから賄えば電力会社が請求する電気料金よりも電気代を低く抑えることが可能になった。

自宅や店舗にリースで設置したストーレージ・サービスの台頭により、電気代金の安い夜間に電気を貯めておき、電気代の高い昼間に蓄電した電気を使うビジネスが成長しています。

従来の電力会社(Centralized Generation)が設定する電気料金は、顧客が普段使用する電気の総量のみでなく、ある瞬間に消費するピーク電力の大きさによって料金体系が段階的に決定されています。

普段はあまり電気を使わなくても、たった1回でも瞬間的に大きな電力を消費する場合は高い料金レートが適用されてしまいます。

バッテリーによるストーレージを使えば、電気料金の安い夜間に蓄電しておき、ピーク電力が必要な際にはバッテリーから供給される電気を使うことで電気料金を安く抑えることが可能になります。

上の図は、アメリカにおけるバッテリー・ストーレージ利用の際の電気代の比較(月間)。

濃い線で囲まれた部分は、2020年には24時間すべてバッテリー・ストーレージによる電力供給を行なった際の価格が$36.8になることを表しています。

例として、アリゾナ州の電力会社の供給する電気料金との比較が述べられています。

アリゾナ州公営の電力会社の料金は、昼間のピーク時は$49.5ですが夜間は$0.05と圧倒的に安くなります。

バッテリー・ストレージは約4時間の充電で翌日の電力を賄えます。料金の安い夜間電力を使えば、上の表の単価で計算すると1日の電気代は$0.2(20セント)。ひと月の電気代がたった$6.00強で済んでしまうことになります。

さらに、このビジネル・モデルが普及すると、以下の理由から従来型の電力会社は業態を大きく変えざる負えなくなります。

電力会社の発電施設は年間のピーク時の最大需要に合わせた規模で建設されています。でも、実際にピークの最大電力需要が発生するのは年間通じてもほんのわずかの時間です。

発電施設の稼働状況。フル稼働するのはほんのわずかの時間。

上の図は、発電能力がピークに近い13,189MWから9,000MWの間を赤色の四角で囲ってあり総出力の32%程になります。

縦軸が発電出力、横軸が時間なので、68%以上に発電施設を稼働させている時間は年間で517時間、5.9%程です。

上のグラフの拡大。赤色で囲った四角の部分は年間で517h。ピーク時の13,001MW~13,189MWの出力を行なっている時間はわずか7h。発電施設はこの7hのピーク電力を生み出す規模の設備を維持する必要があります。

 

遠隔地にある発電所から電気が送られてくる際、電線等の抵抗により約30%の電力が失われています。これらのコストはすべて電気料金に上乗せされています。

自宅の屋根に設置したソーラー発電と組み合わせれば、送電ロスもほとんど問題になりません。

このように、リチュウムイオン・バッテリーの進歩とコストダウンと、それによって新たに登場したバッテリー・ストーレージ・サービスは、従来型の電力会社の存在を根底から揺さぶりはじめているのです。

 

 

2、EV

2013年、米モーター・トレンド誌が選んだその年のベスト・カーとしてTesla Model Sが選ばれました。EVという枠に限定したものではなく、その年に登場したあらゆる車の中からModel Sが選ばれたのです。

Tesla Model S
Tesla Model Sは 2013年度の「カー・オフ・ザ・イヤー」に選ばれました。得点は100点満点中の103点

つまり、トップ・クラスのEVの性能はガソリン・エンジンを積んだ高性能車を凌駕するレベルに達しています。

問題となるのは価格で、最下位グレードのModel S 75でも米本国価格で$69,500(2017年現在)、最上位グレードの Model S P100D はフル装備で$160,000 という大変高価なクルマです。最上位グレードを日本で購入しようとすると約2千万円近い予算が必要です(Teslaは2017年より本国価格で約$35,000の「一般ユーザーにも手の届く」価格帯のModel 3の予約発売を開始しています)。

 

Seba氏は、以下のグラフで一般ユーザーにもEVが買いやすい価格にまで下がる時期の予測をしています。

EVのコスト・カーブ。2020年にはEVは米国のガソリン・エンジン車の平均的価格を下回る。

Seba氏:「一般的米国人の新車購入価格の平均は約$33,000です。2020年にはEVの価格はそれを下回ります。ポルシェ911の性能がビュイック(アメリカのカローラ?)の値段で手に入るのです」

「内燃機関(Internal Combustion Engine、 略してICE)で走る車はエンジンやトランスミッションなどの可動部品が2,000以上あります。EVの可動部品は極端に少ない。よってメインテナンス・コストは比較にならないほど安く済みます

 

■ EVがICE車を凌駕する理由は以下の4点+1

  1. エネルギー効率の良さ(ICE: 17.2% 、EV: 90~95%)
  2. 燃料代の安さ。EVはICE車の1/10
  3. 機械部品点数が少く維持費が安い
  4. 走行性能、特にゼロからの発進加速が圧倒的に優れている

充電インフラの拡充。Teslaや日産が展開するチャージ・ステーションの拡大。特にTeslaの展開しているチャージ・ステーション「Super Charger」は米国内止まらず、ヨーロッパや中国などを中心に世界の主要都市で急速に数を増やしています。2017年現在、米国のTeslaは自社の顧客に対してSuper Chargerの使用を無料としています。

*補足)イーロン・マスクは「エンジンを積まないEVは車体のフロント部分を緩衝部として使える。そのため、衝突の際の安全性は通常のICE車と比較すると圧倒的に高まっている」と言ってます。

 

 

 

3、自動運転車(Autonomous Vehicle)

 

■ センサー、車載用コンピューターのexpotentialな進歩がAutonomousの普及を支える

完全な自動運転は技術的には数年で可能になると言われています。問題はコストですが、センサー分野のexponentialな進歩は驚異的です。

LIDAR(センサー)の価格は$70,000 $250に

上のグラフはAutonomousに使用されるセンサーの価格推移です。

 

 

 

2000年当時、世界一の性能を誇ったASCI RED。150㎡のスペース、$46mil。

 

それが16年後には、、、

 

Autonomous制御の頭脳となるGPUプロセッサーの低価格化と小型化は驚異的。写真は2015年にNIVIDIAが発表した2.3TFGPU。価格は$59。さらに2016年には8TFGPUを発表している。

 

2000年には部屋ほどの大きさだったコンピューターの倍以上の性能のものが、今では片手で持てるほどの大きさになっています。さらに値段は100万分の1にまで低下しました。

さらに2015年、カリフォルニアの天才ハッカーGeorge Hotz氏が、後付けのAutonomousキットを999ドルで発売する、という衝撃的な発表をしました。

 

999ドルで後付けのAutonomousキットの発売を表明した天才ハッカーのGeorge Hotz氏
Hotz氏が開発した「後付け自動運転キット」

 

George Hotz本人が解説する後付けによる自動運転の動画

注)残念ながらこのビジネスはローンチを前に米国政府から販売の差し止めを命ぜられました。裁判で消耗するのを嫌ったHotz氏は自身の開発したプログラム「open pilot」を全てオープン・ソースとして2016年12月にネット上に無料公開しました

コスト的にも、完全なAutonomousが普及する下地はすでに出来上がっていると言えるでしょう。

 

 

■ Autonomousがもたらすビジネス・モデルとは?

では、そんなAutonomousがもたらすビジネス・モデルは世の中にどんな変化をもたらすのでしょうか?

その前に、すでに実現されているビジネス事例を2つ見てみましょう。

スマホで予約できるカー・シェア・サービス&ライド・シェア・サービス。クルマをオン・デマンド・サービスとして使える
広がるライド・シェアのサービス。サンフランシスコにおけるウーバー登録ドライバーの数は22,000(2015年BIデータ)に対してタクシーの数は1825台(2012年wikiデータ)とウーバーが圧倒。

カー・シェアライド・シェア。前者はレンタカーの発展形として、後者はタクシーやバズに代わる公共交通手段として米国では広がりを見せています。

 

また、自家用車を保有する際のコストに注目すると、、、

自家用車の保有は非常に非効率。平均購入価格 $31,000の資産の稼働率は4%

平均購入価格が $31,000もの資産なのに、その96%を駐車場で過ごす時間に費やしています!

ここには大きなDisruptionの下地があります。

 

次にSeba氏が示したのは、ウーバーの2015年の発表。

 

2015年、ウーバーはAuntonomousのライド・シェアの開発を発表。「ドライバーが不要になれば料金はさらに安くなる。そうすれば自家用車を所有する必然性はなくなるだろう」(ウーバーCEO)

注)2017年現在、ウーバーはサンフランシスコ、ピッツバーグなどでAutonomousサービスの試験運用を実施中です。

Autonomousのライド・シェアが格安で使えるなら、自家用車を保有する必然性はなくなります。

大手自動車メーカーもAutonomousのカー・シェア・ビジネスへの参入を表明しています。

GMはAutonomous車による区間限定のライド・シェア・サービスを計画中。
自家用車保有のコスト効率の悪さに加えAutonomousによるカー・シェア、ライド・シェアが増えれば自動車を所有する意義は大きく薄れる。自家用車保有率の8割減が見込まれる。

Seba氏;「これらのサービスと自家用車を保有する際のコストを比較して車を持たない人の数は爆発的に増えるでしょう。Autonomousによるカー・シェア、ライド・シェアの台頭で自家用車保有率の8割が消滅すると思われます。そして2030年には全ての車はEVかつAutonomousに取って代わられるでしょう」

「当然駐車場は不要になり、特に地価の高い都市部における都市計画の再構築のチャンスが訪れます」

「そうなったとき、私たちはどんな都市を望むのでしょう? 公園のようなパブリック・スペースを増やすのか。それともショッピング・モールばかりの商業施設で埋め尽くすのか?」

 

 

4、ソーラー

■ ソラー・パネルの価格低下

ソーラー・パネル(photovoltaic、またはPV)はテクノロジーです。ここでもexponentialな進化が起きており、価格は1970年との比較で1/200にまで低価格化が進んでいます。

 

1970年との比較では200分の1にまでPVの価格低下が進んでいる

 

また、PV装着率は2年で倍の増加を見せています。

PV装着は年間40%以上で増加

 

つまり、理屈の上では14年後(2016年の講演時から)には世界の全ての電力はソーラーで賄われる計算となります。

装着率が年間41%の増加のまま進めば2030年には世界の全ての電力はソーラーとなる。

でも本当にそんな世の中が到来するのでしょうか?

下のグラフは伝統的なエネルギーの価格推移を表したものです。

石油、天然ガス、石炭、原子力、全てのエネルギー価格は高くなっている。

1970年以来、全てのエネルギー価格は右肩上がりを示しています。

 

従来型のエネルギーとの価格比較を見てみます。

ソーラー発電と他の伝統的エネルギーの価格比較。圧倒的にソーラーが安い。

ソーラー発電と比較すると石油は2,110倍ですが、これは1バーレル$30での計算です(2017年11月現在WTIは約$57)。

「忘れてはならないのはソーラー・パネルはテクノロジーであってエネルギーではありません。exponential的な勢いで低価格化が進むということです」

これに加え、米国ではソーラー・パネルのリース業が盛んになってきており、顧客はお金を払うことなく自宅の屋根にパネルを設置できます。新たなビジネス・モデルの台頭です

 

 

■ Grid Parity

ドイツ銀行の試算では2017年時点では、すでに世界の8割の場所でソーラー発電の価格が、伝統的な電力会社の発電所から送電される電気より安くなることを示しています。

ドイツ銀行のレポートでは2017年には世界の8割がGrid Parity(ソーラーと電力会社提供の電気料金の分岐点)に到達する。

しかしSeba氏は「Grid Parity」は通過点に過ぎないと考えます。

「世界のどの地域であろうと、屋根の上のソーラー・パネルが発電する電気が電力会社の送電費より安くなった時が分岐点です」

従来型の発電所(Centralized Generation)は、大掛かりな設備の維持に加え、送電のコストから逃れられません。発電所で作り出された電気は送電の際に30%も失われます。

「この分岐点に達した瞬間、従来の発電所を運営する電力会社は、例えコスト0で発電しても市場競争力を失います」

「思い返してください、あらゆるテクノロジーは分岐点を迎えた瞬間、Sカーブを描いた急激な増加が起きるのです」

「私はこの分岐点を<God Parity>と呼んでいます」

 

 

Seba氏:「God Parityの到来は2020年と予想してます。Clean Disruptionは、今まさに起きつつあるのです」

 

 

 

 

以上

前編を見る

***

 

 

The outcome of the Clean Disruption is that by 2030

• All new vehicles will be electric.

• All new vehicles will be autonomous (self-driving).

• The Internal Combustion Engine will be obsolete

• The Oil industry will collapse • Coal, natural gas and nuclear will be obsolete

• 80+ per cent of parking spaces will be obsolete. • Individual car ownership will be obsolete.

• 95% of miles will be on-demand autonomous and electric (AEV), a new model called Transport-As-A-Service (TaaS)

• All new energy will be provided by solar (and wind) Clean Disruption is a technology disruption. Just like digital cameras disrupted film and the web disrupted publishing, Clean Disruption is inevitable and it will be swift.

 

今回は異例に長い紹介になってしまったことをお詫びいたします。Tony Seba氏の講演「Clean Disruption」は、その内容を正確にお伝えする価値があるものと考え、ほぼ全編を紹介させていただきました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

XX

Please follow and like us:

「クリーン革命」 The Clean Disruption – Tony Seba ①前編

 

「Clean Disruption、それはテクノロジーによる革命だ」Tony Seba氏

クリーン革命。それは避けられないし、すでに始まっている。

Tony Seba (スタンフォード大講師)

 

今回取り上げたのはスタンフォード大の講師であるTony Seba氏の講演「Clean Disruption」(2006年にスウェーデンのオスロで開催されたSwede Bank主催のNordic Energy Summitの動画より)。

Seba氏の著書「Clean Disruption of Energy and Transportation」(2014年)に沿った内容ですが、数多くの講演をこなしている方だけあって、大事な事実が非常にわかりやすく解説されています。YouTubeではいくつかの講演の視聴が可能です。現在起きつつあるエネルギーと交通の大変革を解説したものとして非常に優れたものだと思います。詳細をお伝えできるように前編と後編の2回に分けての紹介としました。

注):「Clean Disruption」を正確に訳すれば「クリーン破壊=(リニューアブル・エネルギーによる既存システムの変革)」でしょうか。 

 

■ Disruptionとは?

まずは講演の冒頭部で示された以下の写真をご覧ください。

1900年当時のニューヨーク5番街を行き来する馬車の群れ。自動車が一台走っているのを見つける事ができますか?

1900年のイースターの朝に撮られたNYC 5番街の写真ですが、大通りを行く馬車の列の中に自動車が1台走ってます。見つける事ができますか?

赤く囲まれた部分に車が1台走っていました。

 

13年後、同じ場所を撮った写真が示されます。今度は自動車の波の中に馬車が1台走っています。

1913年のNYC 5番街。車の波の中に1台の馬車。

 

Seba氏:「これがDisruptionです。Disruption自体は目新しい概念ではありません。馬は何千年もの間、我々の交通手段として使われてきました。しかし、たった13年程で都市における交通手段は自動車に取って代わられてしまったのです」

 

Seba氏は「Disruption」を以下のように定義しています。

「新たな製品・サービスによって新規にマーケットが創出される。そして、既存の製品・マーケット・産業の著しい弱体化・変容・破壊をもたらす

 

Seba氏: 「このように今までのDisruptionは、より安くて優れた商品やサービスが登場することによって引き起こされるのがパターンとなっていました」

「ところが、近年のDisruptionには従来とは異なる法則が働いているようなのです」

 

 

■ なぜ専門家は将来予測を誤るのか?

 

話は1980年代に移ります。

「1985年、当時最大のテレコミュニケーション企業であったAT&Tは、自社が開発した携帯電話の将来性に関する予測をマッキンゼー&カンパニーに依頼しました」

AT&Tの開発した携帯電話市場の将来性予測と実際の差は120倍!

「マッキンゼー&カンパニーが報告した予測は、2000年には90万人の契約者が見込まれる、というものでした」

「ところが、実際の1900年度の携帯電話契約数は1億900万人でした。マッキンゼーの予測した数字との誤差は実に120倍でした

「投資を誤ったAT&Tは自社の保有していた陸上電話網からの収益を失うだけでなく、新たに創出された2.4兆ドル市場への参入機会すら逃してしまったのです。現在IT関連のトップ15社にAT&Tの名前を見つけることはできません」

左グラフ:携帯電話契約者数の予測(黒線)と実際(赤色曲線)  右表:テレコミュニケーション関連企業の市場価格順位

この他にもKodak, Nokiaなど、市場を制覇していたような企業が姿を消している例はいくらでも見つかります。

なぜ専門家は将来予測を見誤ってしまうのか?

彼らは往々にして「そんなことは起き得ない」とか「まだ何十年も先の話だ」と、目新しいものを前にした際、往々にして誤った予測を立ててしまうのはどうしてでしょう?

Seba氏は理由を次のように解説しています;

 

「人々は、従来から親しんできたLinear(直線的)な進化は想像できても、近代テクノロジーのExponential(指数関数的)な進化と、それらのConvergence(収束)による変革をイメージする事が苦手なのです」

 

「ムーアの法則に代表されるように、コンピューター・テクノロジーは年間42%、2年で約2倍という指数関数的なカーブを描いて進歩しています。これは10年で1,000倍、20年で1,000,000倍、30年だと1,000,000,000倍です」

ムーアの法則。ICのトランジスターの数は2年で2倍に。

 

コンピュータの分野のみでなく、他に幾つものテクノロジー領域で同じようなExponetialな進歩を見出せます。

 

exponentialな進歩が顕著なテクノロジー領域

 

「Exponentialなスピードで進歩する複数領域のテクノロジー同士のconvergenceにより、人類が今までに経験しなかったようなスピードと規模の変化がもたらされるのです。シリコンバレーが多く領域でDisruptionを引き起こす理由がここにあるのです」

 

「iPhoneとアンドロイドが同じ年に発売になったのは、テクノロジーのconversionによりスマートフォンの市販が可能となったのがまさにその時期だったからです」

 

Seba氏が示す2016年時点でexponentialな進歩が顕著なテクノロジー領域は以下。

exponential な進歩が顕著なテクノロジー領域(2016年度)

 

■「Clean Disruption」

Seba氏: 「それでは、ここからはエネルギーと交通の分野にフォーカスして話を進めていきます」

4つの領域でのexponential 進歩とconvergenceが「Clean Disruption」を引き起こす。

以下の4つの領域のconvergenceが「Clean Disruption」を引き起こすます。

  1. エネルギーのストーレージ(リチュウムイオン・バッテリー)
  2. EV
  3. 自動運転車
  4. ソーラー

 

後編では、それぞれの領域で何が起きているのか、それらのconvergenceが引き起こす「Clean Disruption」とはどんなものなのか、詳細に見ていきたいと思います。

 

XX

後編を見る

 

 

Please follow and like us: