カーン・アカデミー、「冷戦期におけるアメリカの軍事介入のパターン分析」動画紹介
カーン・アカデミーの教育動画が優れていることをご存知の方は多いと思います。
3,000本以上存在する閲覧無料の動画クリップは数学や物理にとどまらず、化学・芸術から金融など、多岐にわたる分野がカバーされてます。
今回は歴史の分野からの紹介。
世界史−20世紀の歴史~ではこの動画以前にも、冷戦(Cold War)、朝鮮戦争、キューバ・ミサイル危機、ピッグス湾事件、ベトナム戦争などが詳細に解説されています。
ここではその総集編として、それぞれの軍事介入に共通するパターンに関する言及がなされています。
冒頭にカーン・アカデミーの主宰者であり、大半の動画のナレーションを自ら執り行っているサルマン・カーン氏の言葉が素晴らしいです。
「いいかい、歴史を学ぶ際には事実とされている事柄も含め、全てを疑ってかかるように。 この動画で僕が言う事も含めてね! なぜなら歴史とは生き残った者によって編纂された記録だ。実際には裏で何が起こっていたかは誰にも分からない。」
「大事なのは、その説明に納得できるか、ということ。だから僕が今からここで言うことをただ鵜呑みにしてはいけないよ。自分の頭で考えて納得できればそれで良い。そうじゃなければ納得できる解釈を自分自身で探し出すことが大切なんだ」
この動画で彼が解説している内容を以下に要約してみました。
ここでは朝鮮、キューバ、ベトナムを事例に、冷戦期のアメリカの軍事介入のパターン解説がされています。
1、アメリカの軍事介入が始まる以前、これらの国はすべて他国によって占領状態、もしくは隷属状態にあった。ex) 朝鮮は実質的には日本の植民地だった。キューバはバティスタ政権の独裁体制下にあったが実態はアメリカの植民地状態だった。ベトナムはフランスの植民地だった。
2、その状況下では支配層や、それらと癒着して潤う少数の特権階級と、搾取される大多数の一般国民というふたつの階級に分断される。当然、一般国民の体制や政治に対する不満が高まる(真っ当なやり方で財を築く者も存在はしていたが、とも述べられています)。
3、すると独立運動への機運が芽生える。「宗主国や、ひと握りの特権階級に独占されている富を公平に社会に分配しよう!それが社会正義である!」–この考え方は共産主義のイデオロギーとピッタリ一致する。
4、キューバではフィデル・カストロ、ベトナムではホー・チ・ミンが独立運動の推進者として登場。朝鮮は多少事情が異なっており、すでに共産主義者による独立運動は存在していた。キム・イル・ソンはリーダーというよりも、当時共産主義運動をバックアップしていたソ連による後押しが強かったと思われる。
5、そして彼らは企業を国有化し、私有財産の没収と再分配などを標榜する。すると外国企業やそこで私財を築いていた特権階級が駆逐されることになる。
6、欧米の大資本にとってこれはマイナス。また、地政学的にアメリカがソ連に敗退することを意味するので「オーケー、じゃ方程式の反対側に立って力を均衡させなきゃ」とばかりに朝鮮ではシングマン・リー、ベトナムではディエム政権、キューバでは当初はバティスタ、そしてキューバ亡命者を支援して共産勢力との戦いを推進しようする。これらの人物はどれも皆あまり人望があるとは思われない連中だった。
7、ここでSK氏の個人的見解が挿入されます: ケネデイー政権当時、政策決定のためにケネディー側に提供されるキューバのカストロに関するアメリカの内部情報はかなり歪められていたように思える。実際のカストロは非常に人気があり、彼が行なった経済政策も富の再分配を実現していた。
8、以上、冷戦期のアメリカの軍事介入には共通するパターンが見受けられる。そのどれもが失敗、もしくは膠着状態のままで終わっている。ここで得られる教訓は重要だ。
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SK氏はかつてMITで数学とコンピューター・サイエンスを専攻し、その後ヘッジ・ファンドのアナリストの職に就いた経験のある人。そのせいか、ここでの歴史分析もちょっと数学的な香りを感じます。
教科書的な史実の無味乾燥な暗記に始終するのではなく、背景に流れていた人々の思惑のようなものを把握しようとするアプローチは、より豊かな教養として歴史を認識できるように思います。
他にも興味深いコマがザクザク見つかりますので、ぜひチャンスを見つけてもう2〜3編の紹介してみたいと考えています。