テスラが溢れるEV先進都市 − ノルウェー・オスロのEV事情の紹介。
アメリカのブログサイト「VOX」が2017年6月にアップしたノルウェー・オスロにおけるEV事情の紹介動画の解説です。
アメリカからやってきたVOXレポーターのJohnny Harris氏がオスロの街を散策しながら、何故ノルウェーでテスラが大人気なのか?その理由を探ります。
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先日、Nissanが新たなEV車を発表し、そのCMで謳われている「自動運転」の呼称に問題があるとか無いとか、なんて話題がネットを賑わせているようですが、EV車の普及を社会インフラや政策と一環のものとして捉えた場合、ノルウェーの事例は大いに参考になると思い、今回はこの動画を取り上げました。
以下概要:
「僕の人生でテスラを目にしたのは今まで(アメリカ国内では)たった5台きり。そのうちの3台はショールームの中に展示してあるやつだった。それなのにここ(オスロ)を歩き回った2時間ですでに50台ほど目にした。驚いたよ!」
以下、ハリス氏が歩きながら述べるノルウェーにおけるテスラの販売データ;
- 2014年には月間売上台数でNo.1。これはEVのみでなく車全カテゴリー中の1位。
- 販売台数の割合は2016年の数字ではテスラが29%ものシェアを獲得している。3月単月では37%とシェアを上げている。
- 翻ってアメリカでのテスラ車の割合は1%にも満たない*。
(ここで彼は持参のドローンを飛ばしてオスロの街の空撮映像を紹介)
「ノルウェイはダム等による水力発電で99%の電力を賄っている。よって発電コストも安価なんだよ」
「テスラのみならずEVが街に溢れている。ナンバープレートの冒頭に’E’の文字があるのがEVだ」
「一番肝心なのは政策。EV推進のためのインセンティブ付与を国策として進めていることだ」
EV推進のためのインセンティブは以下;
- 公営駐車場におけるEVの駐車料金はタダ
- 公営の充電施設での充電料金タダ
- HOVレーン(High Occupancy Vehicle=乗員が2名以上の車両のみが走れる優先レーン)を乗員1名のときでも走行可能
- 車両登録料タダ
- 所得税の優遇制度
- 消費税(Sales Tax)全額免除
(余談:動画でこの辺りで紹介されるグラフィティの「Even Thugs Cry(悪党だって泣く時がある)」はラップMCの故2pac「 when Thugs Cry 」からの引用と思われます。曲の歌詞は非情な世に対する怒りがテーマとなってるようです)
ここでハリス氏はEV車に充電する街の人にインタビューを行います(動画は4’05″近辺)。
ハリス氏;「ここが、今回僕が見つけた一番のお気に入りの場所、EV車用チャージ・ステーションだ。オスロ市中に2,000箇所も設置されているんだよ。利用中の街の人にちょっと話を聞いてみようか」
街の人:「オスロの街中に設置してあるEV車用のチャージ・ステーションは全て無料なんですよ。その上、有料道路の通行料もタダになるんです」
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なんだか素晴らしい制度ですね。これだけの社会インフラの資金はどこから捻出されているのでしょう?
それは「Sovereign Wealth Fund (国富ファンド – 以下SWF)」と呼ばれる政府系ファンドの存在です。
ノルウェーのSWFは2017年現在で約1兆ドルと世界最大です。このファンドがインフラやインセンティブ政策を可能にしている訳です。
ファンドの資金はノルウェーが石油や天然ガスを売って儲けたお金。実は北海油田を持つノルウェーは世界第14位(2016年度統計)の産油国なんですね。また、近年は天然ガスの比率が増えているようです。(下の産出量推移グラフの緑色が石油、赤色がガス)
出典:Norwegian Petroleum Oil and Gas Production
動画の総括部でハリス氏は、「グリーン化の資金の出所が石油やガスなどCo2を排出する<オイル・マネー>に頼っているのは矛盾してない?」との疑問を投げかけます。
「ノルウェーがやっているのは、自国で化石燃料を燃していないだけで、結局は石油やガスは売られた先で燃やされる。自国のグリーン化推進が、実は他国への化石燃料の輸出で進められているんだ。この矛盾を彼らはどう捉えているのか、ノルウェイの友人に訊いて見ようか」
友人談:「そうだねぇ、中国やインドなどの発展途上国では石油やガスはまだまだ必要とされているしねぇ。なるべくグリーン化に沿った採掘とかって感じかなぁ。化石燃料を売ってグリーン化を進めていることに議論の余地があるのは僕らも認識しているよ。でも何もやらないよりマシだろう?」
ハリス氏は最後に、「夢のように思えたグリーン化、グリーン・インフラ、グリーン社会の紹介だったけど、それは<オイル・マネー>によるもの。結局は世界全体を化石燃料から脱却させる解答ではない事が判ったと思う。それが今回の結論」と動画を締めくくります。
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再度余談ですが、以前テスラの創立者であるイーロン・マスク氏が何かのインビューの中で、「一番多くのテスラを買ってくれている個人はノルウェーの人なんだ。彼は眼科医なんだけど、一人で7台ものテスラを保有している。EVを広める目的で、誰もが乗りたい時に乗れるように試乗の機会を開放しているんだよ」と言っているのを思い出しました。この話、ノルウェーという国の民度の高さがうかがい知れるように思いました。
レポーターのハリス氏が動画で指摘している「化石燃料がグリーン化への資金になっているのは矛盾」という指摘は理解できますが、僕から見れば潤沢な資金が国民全体の富の総量を増やす目的に使われている事実は羨ましい限りです。
日本は世界有数の債権国なのに、稼いだお金はどこに行ってしまうのでしょうか?
*アメリカ国内でもイーロン・マスク氏の進める、一般には奇想天外に思えた各種ビジネスは当初既存勢力からかなり叩かれていました。テスラに関しては現在も州によって販売ができない法的枠組みで販売を拒まれているようです。
*ノルウェイは世界第14位の産油国 出典:Global Note ; https://www.globalnote.jp/post-3200.html