テスラがEV車で成功した理由 (前編) ー Marc Tarpenning

Tesla 共同設立者 Marc Tarpenning

脱・石油 – それこそがテスラを起業した理由なんだ。

Marc Tarpenning – テスラ共同創業者

 

2018年現在、アメリカでは「世界で最も重要な自動車会社」とまで言われるようになったテスラですが、今回は創業者のひとりであるMarc Tarpenning が解説するテスラ成功理由の分析です。

今回は内容が濃いので、前編「なぜEVを製造することにしたのか」と、後編「誰がEVを買うのか」の2部構成にての解説になります。2017年に実施されたProduct Leader Summit にてMarc Tarpenning が行なったプレゼン動画を基にしています)

 

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次のビジネスは世の中の問題を解決する事!

テスラは、Martin Eberhard とMarc Tarpenningという2名のエンジニアによって2013年にシリコン・バレーに設立されました。

彼らはそれ以前にRocket eBookという、現在のタブレット端末の祖先となるようなデバイスを用いて本が読める電子書籍サービスを開発し、2000年にその会社を$187,000,000で売却します。

潤沢な資金を得た彼らが、次なる事業を手がける際にまず最初にやったのは、現在人々が直面している諸問題を列挙することでした。それらは;

「世の中は深刻な問題に満ち溢れている」
  • 水不足
  • 環境
  • 資源枯渇
  • 農産物生産
  • アメリカにおける格差の拡大
  • 世界の貧困問題

そして選ばれたのが石油でした。

 

石油こそが諸問題の根源

なぜ石油が諸問題の筆頭として選ばれたのかをMark Tarpenning(以下、MT)は以下のように説明しています。

「石油 - それは問題の宝庫!」

MT:  「石油ってスゴイんだよ! だってあらゆる問題の宝庫だからね」

「ざっと挙げると、CO2排出による環境問題、資源の利権をめぐっての政治問題や安全保障の問題、エネルギー資源の枯渇。つまり石油への依存が解消されれば、これらの問題すべてが劇的に改善されるということなんだ」(相方のMartin Eberhardもあるインタビューで「僕は当時のブッシュ政権の外交政策に大いなる不満を抱いていた。脱・石油エネルギーを次の目標に選んだ理由のひとつがそれだった」と述べています)

石油消費の7割はクルマによるもの

「そこで僕らはアメリカで消費されている石油の内訳を調べて見た」

「石油消費の主役はクルマ」 Mark Tarpenning のプレゼン資料より

「約70%が交通・運輸の燃料として消費されており、そのうちの50%が乗用車やピックアップ・トラックの燃料として消費されていたんだ」

「脱・石油依存を目指すなら、まずは乗用車市場に目を向けるのが自然の成り行きだった」(注:テスラはシリコンバレーで起業された初の自動車会社となりました)

以下、動画でMTがプレゼンする流れに沿って解説していきます。

 

EV – その他オルタナティブとの比較

「マーチン( 協同経営者のMartin Eberhard)も僕も、電気自動車こそがその解決策だと確信していた」

「そして僕らは、電気以外の代替エネルギーで走る方式の自動車との比較検討を徹底的に行った。せっかく起業しても、もっと優れた方式の競合相手が出現してしまえば市場で敗退してしまう。そんな事は誰だって避けたいからね」

以下は石油以外の代替エネルギー候補として挙げられたもの;

「化石燃料以外の選択肢は?」 ガソリンエンジンの代替となる動力源の候補
  • バッテリーと電気モーター
  • バイオ・ディーゼル
  • クリーン・ディーゼル
  • 圧縮天然ガス
  • エタノール
  • ハイブリッド
  • 水素エンジン
  • 水素燃料電池
  • メタノール
  • 充電併用ハイブリッド
  • 太陽電池とモーター

 

FCV(水素燃料電池車)

MT: 「覚えているかな?この時代(2003年頃)、FCV(水素燃料電池車)が盛んにもてはやされ投資がこの領域に集中していた」

「だから僕らもFCVは特に注意深く吟味したんだ」

「燃料電池はどうだろう?」 FCV(水素燃料電池車)の概念図。水素を電池内部でイオン化させることによって電気を作り出す。水素自体は単体で自然界に存在しないため水素ガス生成には膨大なエネルギーが費やされることになる。
FCVとEVの効率比較。FCVの場合、電気エネルギーから水素ガスを得る段階で最善でも25%にまでエネルギーが減少。EVは85%にとどまる。

でもFCVの効率は最もオプティミスティックな理論値で計算したとしても、せいぜいEVの1/3程度だという事が判明した。

その上、水素を供給するスタンドを世の中に広めるためには膨大なインフラ投資が必要になる。

そんな非効率なものが日の目を見ることなんてあり得ない、というのが僕らの結論だった。

from ‘Inside EVs’ Hydrogen vs. EV   EVとFCVのインフラの比較ー圧倒的にEVの方がシンプル!

 

エタノール燃料車

もうひとつがエタノール燃料だ。

特にバイオマスによって生産されるエタノールに注目が集まっていた。

「エタノールはどうだろう?」 エタノール車の場合の効率はEVの約1/2

エタノール車の効率はEVの半分程度だった。でもバイオマスからエタノールを生産する複雑な過程を経るよりも、原料(家畜の糞や木材等)をそのまま既存の火力発電所で燃やして発電しても効率は同等なんだよ!

よってバイオマスによるエタノール生産にも将来性などは見いだせなかった。

トウモロコシを原料にしたエタノール生産の考察

さらにアメリカは、エタノールの原料としてトウモロコシを栽培する唯一の国なんだ。それも調べてみた。

交通エネルギーの50%をエタノールで賄う場合に必要となるトウモロコシ畑の面積(CIA資料)

上の図は交通エネルギーの50%をエタノールで賄う場合に必要となるトウモロコシ畑の面積なんだけど、これを実施するとなると他の農作物を作る余裕がなくなる。するとアメリカは自国で必要な食料を100%輸入に頼らなくてはいけなくなる。

当然こんなのは問題外だった。

「セルロース エタノールはどうだろう?」 Switch Grass(雑草の一種)を用いたCellulosic Ethanolの場合の考察。

Switch Grass (雑草の一種)から生成されるセルロース・エタノールはどうだろう? 必要な栽培面積はトウモロコシの1/4ほどに改善されるけど、それでもまだ大幅な食料の輸入が必要となる。

 

耕作地と同じ面積に太陽電池を設置したら?

でも、トウモロコシ栽培に必要とされる耕作面積に市販の太陽電池を設置したらどうだろう? そこで作られた電気をEVに充電して走らせれば、なんと32倍もの航続距離が得られるんだ。

つまり、たとえ今後どんな新技術が登場しようとEVの敵ではないという結論に僕たちはたどり着いたんだよ。

「Well to Wheel Efficiency」 燃料が採掘されてから動力になるまでの間の効率比較。グラフ左下がガソリン。効率の悪さに注目。

ちょっと付け加えておくと、たとえEVの電気を全て石炭による既存の火力発電で賄ったとしても、それでもまだエネルギー効率は現在のガソリン車より良いんだよ!

(以下後編)

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2018年1月現在、世界のEV化に向けてのシフト・スピードは日々加速しているようです。でも2013年当時、EVなどは一般には注目されていない領域でした。

マーチンとマークの2人のエンジニアがEVの将来性に目を向けた理由は、「世の中の問題をテクノロジーで解決する」という非常にポジティブな精神に基づいたものでした。

金儲けや数字のゲームに明け暮れる経営者や起業家たちと一線を画す彼らの立ち位置に気がつくと思います。

人々がテスラに惹かれるユニークネス、実はこんなところに根源があるではないでしょうか?

単なるプロダクトではなく、所有することで希望ある未来が目の前に広がっていくような気持ちになれる − テスラ・オーナーはそんな想いを共有しているのではないでしょうか?

後編「EVは誰が買うのか?」にて、人々の「想い」の部分をどのようにしてデザインしていったのかを解説してみたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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後編に進む→

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テスラの成功理由-マーク・ターペニング(テスラ・モーターズ共同設立者)

テスラを創業したふたり。Marc Tarpenning(左)、Martin Eberhard

「人々がEVを買う一番の理由はガソリン代の節約なんかじゃない。社会正義の実践という意思表明にあるんだ」

マーク・ターペニング

 

 

「現在アメリカで一番クールな自動車会社」とまで言われ、世界のEV推進の流れを一気に加速する起爆剤となっているテスラですが、その成功の裏には綿密な市場環境予測と商品のポジショニング、そしてエンジニアの熱い想いがあったのをご存知でしょうか?

EV自体は新しいものではなく、実は初期の実用EVは既に1800年代の中頃、充電可能な鉛蓄電池の発明とほぼ同時に誕生しています。

しかしEVの販売数は1910年代をピークに、その後は徐々に下降線を辿り市場から姿を消します。理由は大量生産方式で圧倒的な価格競争力を持ったT型フォードに敵わなかったから、というのが通説です。

再びまたEVに注目が集まるのは近年になって地球環境問題に人々の関心が集まるようになってからです。

ガソリン自体のエネルギー量は非常に高いのですがエンジンの中で燃焼されて動力エネルギーとして変換された場合の効率は良くても20%程度で、残りのエネルギーは大量の熱として逃がしてしまいます。

翻って、電気モーターは90%以上のエネルギー効率を有しており、単にエネルギー効率という観点では圧倒的にEVの勝利です。

しかしながら、長年ガソリンやディーゼル内燃機関を搭載した車に取って代われるようなEVが登場することはありませんでした。

その理由は、充電式の電池のコストが非常に高かったことに加え、充電容量に限界があり航続距離が短かったのと、充電に長い時間を要する、という3つ部分がハンディとなっていたからです。

また、市場に登場したほぼ全てのEVは省エネ・カーとしてのポジショニングで開発されていました。

要は燃費のみならず、車両本体の値段も可能な限り低く抑えることに主眼が置かれた設計だったのです。

左右の写真は2003年当時市場で販売されていたEVの例(M.Tarpenning プレゼン資料より)

 

 

 

 

 

車の魅力を語る上で最も重要なのが「スタイリング」と「性能」です。

省エネに主眼が置かれて開発された多くのクルマたちは、決して人々をワクワクさせるような魅力を持ってはいなかったのです。

テスラ・モーターズを設立したMartin Eberhardと Marc Tarpenningのふたりのエンジニアが注目したのがこの部分でした。

 

「人々は速いクルマが好きなんだ」(M.Eberhard)

 

「いくら化石燃料から脱却できるEVだと言ったところで、ゴルフカートのようなカッコ悪くて遅いクルマだったら人々は興味を示さないだろう? ほとんどのEVが失敗した理由はそこなんだ」

 

「でも、ICE(Internal Combustion Engine= 内燃機関)が古臭く見えてしまうような圧倒的に高性能で魅力的なEVなら、人々は喜んでそちらに乗り換えたくなるだろう? そうでなくては長年ICEで培われてきた人々のクルマに対する意識を変えることなどできないと思ったんだ」

「僕たちの創り出したクルマは0-60mile加速では他のほとんどの量産高性能スポーツカーたちを凌駕する。これがEVに対する人々の意識を変革する強力な説得材料となったんだ」

 

さらに、彼らは当初GMによって1996年から1999年の間の3年間だけリースのみで存在していたEV1という、当時カリフォルニアではそこそこ人気のあった電気自動車の顧客層分析を行いました。

EV1

すると、EV1をリースした顧客層というのは、ベルエアなどの高級住宅地に家を持ち、年収が$250,000以上もあるような富裕層だったことに気がつきました。

この人たちはガソリン代を気にするような人々ではありませんし、自宅のガレージにはEV1以外にもポルシェ911が並んでいたりします。

さらには、マークの住むシリコンバレー周辺ではトヨタのプリウスが大人気でした。

「どんな人がEVを買っているのだろう? そう思って僕たちは顧客層を注意深く観察してみた」

「ご承知のようにパロアルト周辺の駐車場には、ポルシェ、プリウス、ポルシェ、プリウスと、互いに並ぶようにしてプリウスとポルシェ911の姿をよく見かける。そしてこれはトヨタの大誤算なんだけど、プリウス・オーナーの多くはもっと高価なレクサスからの乗り換え組みなんだ。彼らはガソリン代よりもスターバックスでラテに費やす金の方が多いような連中なんだよ(笑)」

「人々がEVを選ぶ際の動機は、『自分はクリーン・エネルギーの推進を応援する人』という自己表現欲求にあったんだよ」

 

そこからテスラ・ロードスターの開発が始まりました。

マーチンとマークのふたりのエンジニアが特に優れていたのは、人々がワクワクするような魅力的で高性能なEVを作るという、それまで大自動車メーカーも試みることのなかった市場のバキューム・ゾーンに着眼し、そこに果敢にチャレンジした点だと思います。

それは単に技術的な側面の開発だけにとどまらず、「クルマ好きの気持ち」というエモーショナルな部分にまで深く踏み込んだ包括的なライフスタイル提案となっています。

ざっと挙げると; カー・ディーラー(古色蒼然とした古い慣習の下で多くの顧客層が不満を抱いている部分!)を介さない直販体制*や、「スーパー・チャージャー」と名付けられた急速充電ステーションの全国ネットワークの構築、オーナーが自宅ガレージで充電するための「パワー・ウォール」と呼ばれるリチュウムイオン・バッテリーのストーレージ・システム、さらには自家発電を可能にするソーラー・パネルの販売と設置まで、非常に高品質な製品とサービスの提供を実現しています。

言い換えれば、彼らが産み出したものは、EVを中心に据えたオプティミステイックなライフスタイルの提案でした。

コスト・カットのための妥協の産物のような存在だった従来のEVには未来へのペシミスティックなムードが漂います。

しかしテスラが提案するEVからはオプティミスティックな未来が感じられます。

人々が競ってテスラを手に入れたがる理由が実はここにあるのです。

こんな自動車会社は近年どこにも存在していませんでした。

 

* * *

 

次回はMarc Tarpenningの講演から「テスラがEVとして成功した理由」を詳細にみて行こうと思います。

 

XXX

 

*Teslaの直販体制: 既存のディーラーの存在を脅かすため、各方面で波紋を生み出しています。ユーザー利益が最優先とは行かない局面も多々あるようです。

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「イーロン・マスクの王座も束の間」- Bloomberg 記事よりの抜粋

Elon Musk Bloomberg 2017/12/1記事「Elon Musk’s Battery Boast Will Be Short-Lived」より

「イーロン・マスクのバッテリー自慢も束の間」??

2017年12月1日付けのBloomberg tech電子版より。

 

 

オーストラリア南の都市で100megawattのリチュウムイオン・バッテリー・ストーレージ施設の完成を約束通り100日以内で終えたイーロン・マスク率いるテスラ。

今後これが世界の発電・電気供給システム構築のベンチマークとなると言われています(近隣に併設された風力発電施設とgridの併存による電力供給システムなので100%リニューアブル・エネルギーではありません)。

http://www.bbc.com/news/world-australia-42190358

マスクは今回の事業を開始する前「100日以内に完成できなかったら金はいらない」とTweetしていましたが見事に約束を果たしました。

ソーラーや風力発電は現在すでに火力・原子力などの既存の発電システムより安く発電できます。

でも相手は自然。問題は太陽光が得られない夜間や風が止んでしまった状況では発電できないことでした。

場合によっては発電量が受電システムの許容量を超えてしまう時もあり、その場合もシステムを停止します。

そんな、人間の都合に合わせてくれないリニューアブル・エネルギー発電の宿命とも言える発電量の凸凹によってシステムが上手く稼働できないのをアチラでは「curtailment」と呼ぶそうです。

長年、その「curtailment」が、例え発電コストは既存システムより安くなっていてもソーラーや風力発電がエネルギー生産のメインプレーヤーの座を勝ち取れない理由となっていました。

しかし、リチュウムイオン・バッテリーの驚異的な進歩と低価格化により、夜間や風の止んだ発電ができない時間帯でも、大規模なバッテリー・ストレージ施設を設けることによって昼間や風のある時間に充電した電気を常時安定的に安く供給することが可能となりました。

今回は、とうとうひとつの街全体の電力需要がバッテリー・ストーレージにより安定的かつ安く賄える事が証明されました。
(昼間や風のある際はリニューアブルから蓄電、夜間はgrid<=電力会社からの送電>から安い夜間電力で蓄電するので電気代が安くなります)

その意味で今回のテスラの事業が今後のベンチマークになると言えるのでしょう。
(ハワイのカウアイ島など、発電コストが非常に高い離島地域ではテスラのシステムは既に導入実績があります)

しかし記事では、さらにその規模を上回る150megawattの電気供給能力を持つ施設が韓国では(ヒュンダイが事業主)進行中で、完成は来年の2月とのこと。

よって記事のタイトルが、「イーロン・マスクのバッテリー自慢も束の間」。

 

また、Bloombergの本記事に添付されている動画は、ソーラー発電とバッテリーの進歩&低価格化により世の中が変革される話が非常に簡潔かつセンス良くまとめられているので、興味ある方はぜひご覧になられると良いと思います。

前回のBlog記事「クリーン革命」(The Clean Disruption  – Tony Seba)でも本内容に関しての詳細な解説を試みておりますので、よろしければそちらもご覧ください。

 

 

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