テスラとパナソニックの出会い

テスラ創業者の2人。左から Martin Eberhard, Marc Tarpenning,

「テスラが成功するかどうか、その鍵はバッテリーにあったんだ」(M.E)

テスラ創業者の2人、マーチン・エバーハード&マーク・ターペニングの講演から

 

今回はスタンフォード大学がネット上に無料で提供している起業セミナー動画からのピックアップです(録画は2016年10月)。

今やEV時代の先端を走るテスラですが、2003年に同社を設立した際の創立メンバーがここに登場しているマーティン・エバーハードマーク・ターペニングの2人でした。

テスラを設立する以前、彼らはNuvoMediaという会社を設立し、「Rocket eBook」という商品名の最初期の電子書籍デバイスとシステムを開発しました(余談ですが、このデバイスを成功に導いたひとつの要因が、日本企業であったシャープが当時開発した最新のDMTNいう液晶技術があったからだそうです。スタートアップ時に彼らはこの液晶技術を確認するために日本にやってきています)。

Marc Tarpenning のプレゼン資料より;Rocket eBookを手に持つ若かりし頃のMartin Eberhard

「Rocket eBook」を開発する過程で、彼らはリチュウムイオン・バッテリーに出会い、その将来性を確信していました。

リチュウムイオン・バッテリーの優れた点としてマーティンがここで列挙したのは

  • 90%以上というエネルギー効率の良さとエネルギー密度の高さはEVのパワー源として他の選択肢を大きく凌ぐ
  • 原料となるリチュウムはほぼ無限と言えるほど豊富に存在し、なおかつ安価。一番コストのかかるのはコバルトだが代替素材の開発も進んでいる。
  • 寿命が尽きた後も素材のリサイクルが可能。すべての分子はそのまま残っている。化石燃料は燃焼後には二酸化炭素となって大気に放出され失われてしまい燃料タンクは空になる。

2000年3月にNuvoMediaをTV Guide社へ1億8700万ドルで売却した後、彼らが選んだ次の仕事がクルマ作りでした。

マーチンは「僕はクルマ好きとは正反対のような人間だったんだよ」と断った上で、なぜクルマ作りを選んだのか、その理由を述べています。

  • 地球温暖化の抑制
  • アメリカの石油消費の半分以上はクルマの燃料。
  • アメリカの外交政策への不満。アメリカ政府は絶対に認めないが、中東の不安定な状況は石油が原因だと皆が知っている。
  • このような状況に皆が困っている。持続可能エネルギーへの転換という目標と手段が明白に見えていた。
Mark Tarpenningのプレゼン資料より。 アメリカにおける石油消費の50%以上が自動車によるもの。

テスラのサクセス・ストーリーは別の機会に紹介するつもりですが、ここで興味深かったのはバッテリーに関する部分でした。

EVを生産するに当たって一番重要なのがバッテリーの確保でした。彼はここで当時の思い出話しをします。

日本の大手電気メーカーとの交渉の思い出を話すMartin Eberhard

マーティン; 「テスラが成功するかどうか、その鍵を握るのがバッテリーなのは明白だった。日本の大手電機メーカーに商談に行った際(社名を挙げてはいませんがパナソニックと推測されます)、驚いたの生産の決定権はアメリカのレップ(営業)でもなければ、ましてや本社のCEOでもなく、工場の責任者が掌握しているんだ。だから僕らは日本の工場の責任者に会いに行った」

「僕らがひとしきりの説明を終えると、工場長の彼は興味なさそうに、『我々はすでに採算ギリギリのラインで生産しており手一杯なんです。自動車業界のコスト締め付けの厳しさは良くわかっているつもりです。申し訳ありませんが要望を受け入れる余裕はありませんね』と我々との取引を断ろうとしたんだよ」

「そこで僕はこう言ったんだ、『いいですか、現在あなた方が顧客ひとりあたりに売っているリチュウムイオン・バッテリーの数はどれくらいでしょう?ラップトップPCが良くて2台、DVDプレーヤーとか、それらを含めても20~30個、良くて50個程度でしょう? 私が言っているのはひとりあたりに8,000個が売れる話なんですよ。市場規模がこんなに拡大するチャンスを他に思いつきますか?』。彼はすぐに考えを変えてくれたよ(笑)」

テスラのバッテリー・モジュール部分。パナソニック製ですね。

1台のテスラ・ロードスターが搭載するリチュウムイオン・バッテリーはラップトップPCの1,200〜1,300台分に相当。

現在テスラはアメリカのネヴァダ州にGiga Factoryと名付けた世界最大のリチュウムイオン・バッテリー工場を建設しています(パナソニックも経営参画してます)。

建設途中の段階にありながらすでに稼働を始めていますが、100%完成したのちには、現在世界で生産されているリチュウムイオン・バッテリーの総量を上回る生産をこの工場ひとつで実現してしまいます。

テスラは今後もGiga Factoryの建設をニューヨーク州やヨーロッパ、そして中国などに展開していく予定だそうです。

EVの台頭と共にリチュウムイオン・バッテリーの需要が爆発的に増えていくことが見込まれており、それによって開発競争が加速され、今後は急速にバッテリーの品質と性能が向上していくことが予想されています。

マーチン; 「従来のリチュウムイオン・バッテリーは2〜3年で寿命となっていた。でもそれは用途がラップトップPCやカメラなど、デバイス自体が2年ほどで次世代機に取って代わられるようなものに使われていたからだ。あえて電池寿命を延ばす必要性がなかった」

「だがこれからは違う。EVに用いられるようになると各電池メーカーは必死になって電池寿命を延ばす研究を始める。コストもどんどん下る。すでにそれは始まっているんだ」

 

講演の最終部で彼はこう付け加えています。

「世の中にとって正しいことをやれば、利益は後からついてくるんだよ」

 

次回はそんなバッテリー性能の向上が何をもたらすかを探ってみたいと思います。

 

***

 

*現CEOのイーロン・マスクは当初は投資エンジェルとしてテスラ・モーターズ(当時の社名)創業の翌年の2004年から筆頭株主として経営参画しました。

この時の従業員数はまだ5名でした。

マーク・ターペニングは他の講演でイーロン・マスクとの出会いについて以下のような話をしています: 「創業してまもない頃、資金集めのためにシリコン・バレーのベンチャー投資家たちに電気自動車を作る話をした途端、僕らは<イカれたヤツら>って思われてまともに話を聞いてくれなかったんだ」

「イーロンは当時もエンジェル投資家としてシリコン・バレーでは名前が知れ渡っていた。彼はロケットを打ち上げる会社を興していたんだ(後のスペースX)。つまりそのときに僕らの前で話を聞いていた投資家は、僕らの遥か上をいく<イカれたヤツ>だったわけ(笑)」

「話を聞き終えたイーロンは『オーケー、その話、乗った』と即答したよ」

イーロン・マスクがCEOとして就任するのは2008年。

 

 

 

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