ソーラー発電とリチュウムイオン・バッテリーだけでアメリカのすべての電力供給は可能 - Elon Musk

ソーラー発電とリチュウムイオン・バッテリーだけでアメリカ全土の電力供給はもう可能な段階なんだよ! Elon Musk

(2015年のテスラ・エネルギー発表会動画より)

 

前回はリチュウムイオン・バッテリーの技術革新に触れましたが、今回はそれがどのような影響を世の中に与えているのかを見ていきたいと思います。

 

テスラは一般家庭向けの「パワー・ウォール」と、工場や大規模な施設のユーティリティー用の「パワー・パック」という2つのタイプのストーレージ・バッテリーを供給しています。

これはその製品発表会からのピックアップ。

壇上のイーロン・マスクは、昨今のソーラー・パネルとリチュウムイオン・バッテリーの技術革新により、化石燃料を用いる現状からの脱却が可能なことを訴えています。

下のイラストは、アメリカにおける電力需要をすべてソーラー発電に切り替えた際に必要となるソーラー・パネル総面積のイメージ。

テキサス州の左上部分、青い四角がアメリカ全土に電力供給する際に必要となるソーラー・パネルの総面積

別のプレゼンテーションでマスクは「アメリカ全土の電力を供給するのに必要なソーラー・パネルの総面積は約100マイル四方程度で十分」と言及しています。

詳細には触れられてないので計算方法は不明ですが、この数字を平方キロに換算すると約26,000平方キロ。

イラストで示されたテキサス州(総面積は約700,000平方キロ)の一角は州全体の約4%の面積となります。

アラスカとハワイを除いたアメリカ本土総面積との比較では必要とされる面積は0.003%ほど。

彼は「新たな土地を探さなくとも、既にある建物の家根にパネルを設置するだけでこの広さは獲得できるんだ」と言ってます。

この算出方法を日本に置き換えてみると、すべての電力*をソーラーで賄うのに必要な面積は約6,500平方キロという計算になります(アメリカの年間電力需要の約1/4として)。

これは栃木県や群馬県の面積とほぼ同じ位。

マスク;「ソーラー発電のネックとなっていたのは太陽は毎日沈んでしまうこと。多分みんなも気づいていると思うけど、夜間に発電はできないからね(笑)」

「だが、リチュウムイオン・バッテリーの進歩がそれを変えた。昼間に太陽光から得られた電気をバッテリーに貯めておき、日が沈んだ後はバッテリーの電気を使う。場合によっては完全にグリッド(電力会社からの送電)から独立することも可能だ」

 

以下に示されたイラストは、ソーラー発電でアメリカの全電力を賄う際に必要となるバッテリー設置面積のイメージ(赤色ピクセルひとつ分!)。

青い四角の中の赤点がリチュウムイオン・バッテリー用に必要とされる面積

マスク; 「バッテリーのために必要とされる土地など、原発の設備と比較したら大した広さではないんだ」

 

ソーラー発電とリチュウムイオン・バッテリーの組み合わせは、化石燃料を一切使わないエネルギー供給を可能とします。

マスク; 「僕たちはカーボンを大量に排出し続ける現状をいつまで続けるつもりなのだろう? 一旦排出されたカーボンは大気から取り除けない。ここから抜け出すのが早ければ早いほど良いのは明白だ」

このまま化石燃料を使い続けた場合のカーボン排出量予想
ソーラー発電とバッテリーによる再生可能エネルギーに転換した場合

 

以下マスクのプレゼンの最終部分から;

「アメリカの電力すべてを賄う際に必要とされるパワー・パックの数は1億6,ooo基。交通や冷暖房など、現在は大半が化石燃料で賄われている分野まで含めると20億基で実現可能となる」

「これは途方もない数に思えるだろう? でもトラックを含めたアメリカ全土を走る自動車の総数と同じくらいなんだ。自動車は何年かごとに新車にとって代わられている。その気になれば、これくらいの数のバッテリーを普及させるのは可能なんだよ」

「だから僕らはバッテリーに関する特許をオープンで無料にする。多くの企業がこの分野に参入してくることを望んでいる。人類が再生可能エネルギー社会へと転換するのを促進したい」

会場は大拍手。

https://youtu.be/yKORsrlN-2k?t=3m23s

動画の3’25″辺りからが今回取り上げた内容のパート

 

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夢に溢れたとても良い話でしたが、ここでのマスクはソーラーパネルの効率やコスト**、それに地域によって存在するレギュレーション等には触れてません(さらには長年市場を独占していた電力会社や石油会社などの既得権益層からの反対や圧力もあります)。

マスクの話は近未来を予見させるものですが、技術・コスト・制度等、これらが揃って現実化するにはまだ少々時間がかかることでしょう。

そのスピードを速めるために特許をオープン&無料にして他の企業の参入を促進させるなんて、まことにアッパレですね。

 

***

  • Wikipediaによると、日本が2014年に消費した総電力量は 934,000,000,000KWh/。同年のアメリカの消費量は 3,913,000,000,000KWh/yで約4倍。

 

**2017年現在、ソーラーの最新技術であるPerovoskiteを用いたパネルのトップクラスは33%の発電効率を獲得しており、価格も1平方メートルあたり$105以下にコストダウンが進んでます。 さらに、46%という高効率のEpitaxially Grown Single Crystal パネルは1平方メートルあたり$40,000以上と大変高価。人工衛星等に用いられています。

Stanford大のM. McGehee教授のサイトより引用

 

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以下、関連動画;

現在テスラが南オーストラリアで建設中の電力供給施設。完成すれば2017年10月現在、世界最大のリチュウムイオン・バッテリーによるストーレージ施設となるプロジェクトの紹介。発電は風力&ソーラーの併用。

 

上記のレセプション・パーティーの際に参加者のスマホで撮られた動画。マスクのプレゼンに聞き入る観客たちの熱気が伝わってきます。

 

ここまでご覧になっていただきありがとうございます!

引き続き次回も、ソーラー・パネルとリチュウムイオン・バッテリーの進歩がどんな風に世の中を変えていくのか、そんな部分を見ていきたいと思います。

 

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テスラとパナソニックの出会い

テスラ創業者の2人。左から Martin Eberhard, Marc Tarpenning,

「テスラが成功するかどうか、その鍵はバッテリーにあったんだ」(M.E)

テスラ創業者の2人、マーチン・エバーハード&マーク・ターペニングの講演から

 

今回はスタンフォード大学がネット上に無料で提供している起業セミナー動画からのピックアップです(録画は2016年10月)。

今やEV時代の先端を走るテスラですが、2003年に同社を設立した際の創立メンバーがここに登場しているマーティン・エバーハードマーク・ターペニングの2人でした。

テスラを設立する以前、彼らはNuvoMediaという会社を設立し、「Rocket eBook」という商品名の最初期の電子書籍デバイスとシステムを開発しました(余談ですが、このデバイスを成功に導いたひとつの要因が、日本企業であったシャープが当時開発した最新のDMTNいう液晶技術があったからだそうです。スタートアップ時に彼らはこの液晶技術を確認するために日本にやってきています)。

Marc Tarpenning のプレゼン資料より;Rocket eBookを手に持つ若かりし頃のMartin Eberhard

「Rocket eBook」を開発する過程で、彼らはリチュウムイオン・バッテリーに出会い、その将来性を確信していました。

リチュウムイオン・バッテリーの優れた点としてマーティンがここで列挙したのは

  • 90%以上というエネルギー効率の良さとエネルギー密度の高さはEVのパワー源として他の選択肢を大きく凌ぐ
  • 原料となるリチュウムはほぼ無限と言えるほど豊富に存在し、なおかつ安価。一番コストのかかるのはコバルトだが代替素材の開発も進んでいる。
  • 寿命が尽きた後も素材のリサイクルが可能。すべての分子はそのまま残っている。化石燃料は燃焼後には二酸化炭素となって大気に放出され失われてしまい燃料タンクは空になる。

2000年3月にNuvoMediaをTV Guide社へ1億8700万ドルで売却した後、彼らが選んだ次の仕事がクルマ作りでした。

マーチンは「僕はクルマ好きとは正反対のような人間だったんだよ」と断った上で、なぜクルマ作りを選んだのか、その理由を述べています。

  • 地球温暖化の抑制
  • アメリカの石油消費の半分以上はクルマの燃料。
  • アメリカの外交政策への不満。アメリカ政府は絶対に認めないが、中東の不安定な状況は石油が原因だと皆が知っている。
  • このような状況に皆が困っている。持続可能エネルギーへの転換という目標と手段が明白に見えていた。
Mark Tarpenningのプレゼン資料より。 アメリカにおける石油消費の50%以上が自動車によるもの。

テスラのサクセス・ストーリーは別の機会に紹介するつもりですが、ここで興味深かったのはバッテリーに関する部分でした。

EVを生産するに当たって一番重要なのがバッテリーの確保でした。彼はここで当時の思い出話しをします。

日本の大手電気メーカーとの交渉の思い出を話すMartin Eberhard

マーティン; 「テスラが成功するかどうか、その鍵を握るのがバッテリーなのは明白だった。日本の大手電機メーカーに商談に行った際(社名を挙げてはいませんがパナソニックと推測されます)、驚いたの生産の決定権はアメリカのレップ(営業)でもなければ、ましてや本社のCEOでもなく、工場の責任者が掌握しているんだ。だから僕らは日本の工場の責任者に会いに行った」

「僕らがひとしきりの説明を終えると、工場長の彼は興味なさそうに、『我々はすでに採算ギリギリのラインで生産しており手一杯なんです。自動車業界のコスト締め付けの厳しさは良くわかっているつもりです。申し訳ありませんが要望を受け入れる余裕はありませんね』と我々との取引を断ろうとしたんだよ」

「そこで僕はこう言ったんだ、『いいですか、現在あなた方が顧客ひとりあたりに売っているリチュウムイオン・バッテリーの数はどれくらいでしょう?ラップトップPCが良くて2台、DVDプレーヤーとか、それらを含めても20~30個、良くて50個程度でしょう? 私が言っているのはひとりあたりに8,000個が売れる話なんですよ。市場規模がこんなに拡大するチャンスを他に思いつきますか?』。彼はすぐに考えを変えてくれたよ(笑)」

テスラのバッテリー・モジュール部分。パナソニック製ですね。

1台のテスラ・ロードスターが搭載するリチュウムイオン・バッテリーはラップトップPCの1,200〜1,300台分に相当。

現在テスラはアメリカのネヴァダ州にGiga Factoryと名付けた世界最大のリチュウムイオン・バッテリー工場を建設しています(パナソニックも経営参画してます)。

建設途中の段階にありながらすでに稼働を始めていますが、100%完成したのちには、現在世界で生産されているリチュウムイオン・バッテリーの総量を上回る生産をこの工場ひとつで実現してしまいます。

テスラは今後もGiga Factoryの建設をニューヨーク州やヨーロッパ、そして中国などに展開していく予定だそうです。

EVの台頭と共にリチュウムイオン・バッテリーの需要が爆発的に増えていくことが見込まれており、それによって開発競争が加速され、今後は急速にバッテリーの品質と性能が向上していくことが予想されています。

マーチン; 「従来のリチュウムイオン・バッテリーは2〜3年で寿命となっていた。でもそれは用途がラップトップPCやカメラなど、デバイス自体が2年ほどで次世代機に取って代わられるようなものに使われていたからだ。あえて電池寿命を延ばす必要性がなかった」

「だがこれからは違う。EVに用いられるようになると各電池メーカーは必死になって電池寿命を延ばす研究を始める。コストもどんどん下る。すでにそれは始まっているんだ」

 

講演の最終部で彼はこう付け加えています。

「世の中にとって正しいことをやれば、利益は後からついてくるんだよ」

 

次回はそんなバッテリー性能の向上が何をもたらすかを探ってみたいと思います。

 

***

 

*現CEOのイーロン・マスクは当初は投資エンジェルとしてテスラ・モーターズ(当時の社名)創業の翌年の2004年から筆頭株主として経営参画しました。

この時の従業員数はまだ5名でした。

マーク・ターペニングは他の講演でイーロン・マスクとの出会いについて以下のような話をしています: 「創業してまもない頃、資金集めのためにシリコン・バレーのベンチャー投資家たちに電気自動車を作る話をした途端、僕らは<イカれたヤツら>って思われてまともに話を聞いてくれなかったんだ」

「イーロンは当時もエンジェル投資家としてシリコン・バレーでは名前が知れ渡っていた。彼はロケットを打ち上げる会社を興していたんだ(後のスペースX)。つまりそのときに僕らの前で話を聞いていた投資家は、僕らの遥か上をいく<イカれたヤツ>だったわけ(笑)」

「話を聞き終えたイーロンは『オーケー、その話、乗った』と即答したよ」

イーロン・マスクがCEOとして就任するのは2008年。

 

 

 

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Space X – 1度の打ち上げで10基の衛星を軌道に配置

Space X が打ち上げた衛星は一度に10基!

 

日本時間で2017年10月10日の午前、国産ロケットH2Aが衛星打ち上げに成功しましたが(おめでとうございます!)、現地時間でその前日の9日、カリフォルニアのバンデンバーグ基地から民間企業であるSpace Xはイリジュウム3の打ち上げに成功しており、一番コストのかかる1段目のブースター・ロケット部分は打ち上げから7分少々後に無事に帰還しています。

イリジュウムは今回1回の打ち上げで10個(!)の衛星を計画された軌道に配置したようです。

10基の衛星を積み込んだ2段目ロケットは軌道を回りながら100秒ごとに1基の衛星を放出し、そこから衛星は若干の高度を上げて周回軌道につきます。10基すべての衛星を配置する作業は15分で完了します。

今回で3回目、2018年中頃までにあと数回の打ち上げてを行い、バックアップも含め全部で81基の衛星を軌道に乗せる予定。そのうち75基がSpace Xによって打ち上げられるそうです。

IRIDIUM社 Matt Desch氏によるイリジュウム・システム解説部分(14’00″より)

 

今回の成功でトータル30基が軌道に配置さた事になり、81基の配置が全て完了すれば地球上どこでも常時GPS、電話、その他コミュニケーションが可能となるそうです。

特筆すべきは、この衛星システムは常時、地球表面上のあらゆる部分をカバーするので、どこでもコミュニケーションが可能となる事。

例えば、極寒の吹雪の中、わざわざテントを出て小高い丘に上がって衛星を捉えるような行為は一切不要になる、と動画でも解説しています。

打ち上げの瞬間

 

プレスキット;
http://www.spacex.com/sit…/spacex/files/iridium3presskit.pdf

打上げの動画とイリジュウムのPR動画;
http://www.spacex.com/webcast

***

以下、私感ですが;
1段目のブースターロケット部の回収技術を持たない日本のロケットではコスト面で商業衛星打上げビジネス市場で戦うのは厳しいのでは?

これらの比較はおろか、日本のマスメディアはSpace XもTeslaSolar CityBoring Co.も何も詳細を伝えていないように思います。

でも、現代の「モノづくり」というのはこういうものを指すのではないでしょうか?

彼らは盛んに「モノづくり」という言葉を一種のバズワードのように使いますが、どうもそこでイメージされている世界観には、下町の鉄工所で年季の入ったガンコ職人が旋盤回して手先の器用さと体に染み込んだ感覚や技術を発揮して神業のような仕事ぶりを実現して欧米人の鼻を明かす、なんて想いが限りなく漂っているように思えてしまうのが残念です。

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