2030年までに、すべてのエネルギーと自動車・交通システムは根底から変革される。
Tony Seba(スタンフォード大講師)
前編ではテクノロジーのexponential(指数関数的)な進化と、それらの convergence(収束)が現代のDisruptionを引き起こす話をしました。
後編ではエネルギーと交通の分野において、それそれのexponentialな進化と、それらのconvergenceがどのような Disruptionを引き起こすのかを詳細に見ていきます。
■「Clean Disruption」を支える4つの領域
- エネルギーのストーレージ
- EV
- 自動運転車
- ソーラー
1、エネルギーのストーレージ
■リチュウムイオン・バッテリーの需要拡大がコスト・ダウンと性能の向上を加速している
Seba氏: 「リチュウムイオンバッテリーのコストは1995年から2010年頃までの15年間にわたって毎年14%ずつ安くなっていました」
「2009年頃を境に自動車業界とエネルギー業界がリチュウムイオン・バッテリーをストーレージとして使用し始めると、需要と投資の拡大によって2010年から2014年のコストカーブは年間16%減に向上しました。最近はさらにそれが加速されています」
そのコスト・カーブのイメージは以下のグラフになります。
リチュウムイオン・バッテリー以外の他の方式を試みても、このコスト・カーブを凌駕するものでなくては淘汰されてしまいます。
2017現在、テスラがネヴァダ州に建設中のギガ・ファクトリーが完成すると、この工場ひとつの生産量それまで世界で生産されていたリチュウムイオン・バッテリーの総量を上回ります(まだ完成はしてませんがすでに稼働を開始しています)。
原料のリチュウムはネヴァダ州周辺で採掘され、そのまま工場に運び込まれてバッテリーが製造されます。それは同じ工場で生産されるTesla Model3に搭載されて完成車となり出荷されます。
原料の加工から最終的な製品であるEVの出荷までをワン・ストップで行うことによるコスト・ダウン効果は約30%〜50%。
さらにはバッテリー性能も毎年5%づつの向上が期待できるとイーロン・マスクは公言しています。
テスラと、それ以外の企業も含め、大規模な工場が世界各地で建設されつつあります。
加えて、Teslaが販売する個人宅用のバッテリー・ストーレージのPower Wallは$350/kWh 、業務用のPower Packになると $250/kWhを実現しており、Seba氏のコスト・カーブ予想を上回る性能をすでに2016年時点に実現しています。
■ ストーレージ・サービス 新たなビジネスモデルがDisruption をもたらす
リチュウムイオン・バッテリーのコスト・ダウンと性能向上は新たなビジネス・モデルによるDisruptionを生み出します。
自宅や店舗にリースで設置したストーレージ・サービスの台頭により、電気代金の安い夜間に電気を貯めておき、電気代の高い昼間に蓄電した電気を使うビジネスが成長しています。
従来の電力会社(Centralized Generation)が設定する電気料金は、顧客が普段使用する電気の総量のみでなく、ある瞬間に消費するピーク電力の大きさによって料金体系が段階的に決定されています。
普段はあまり電気を使わなくても、たった1回でも瞬間的に大きな電力を消費する場合は高い料金レートが適用されてしまいます。
バッテリーによるストーレージを使えば、電気料金の安い夜間に蓄電しておき、ピーク電力が必要な際にはバッテリーから供給される電気を使うことで電気料金を安く抑えることが可能になります。
上の図は、アメリカにおけるバッテリー・ストーレージ利用の際の電気代の比較(月間)。
濃い線で囲まれた部分は、2020年には24時間すべてバッテリー・ストーレージによる電力供給を行なった際の価格が$36.8になることを表しています。
例として、アリゾナ州の電力会社の供給する電気料金との比較が述べられています。
アリゾナ州公営の電力会社の料金は、昼間のピーク時は$49.5ですが夜間は$0.05と圧倒的に安くなります。
バッテリー・ストレージは約4時間の充電で翌日の電力を賄えます。料金の安い夜間電力を使えば、上の表の単価で計算すると1日の電気代は$0.2(20セント)。ひと月の電気代がたった$6.00強で済んでしまうことになります。
さらに、このビジネル・モデルが普及すると、以下の理由から従来型の電力会社は業態を大きく変えざる負えなくなります。
電力会社の発電施設は年間のピーク時の最大需要に合わせた規模で建設されています。でも、実際にピークの最大電力需要が発生するのは年間通じてもほんのわずかの時間です。
上の図は、発電能力がピークに近い13,189MWから9,000MWの間を赤色の四角で囲ってあり総出力の32%程になります。
縦軸が発電出力、横軸が時間なので、68%以上に発電施設を稼働させている時間は年間で517時間、5.9%程です。
遠隔地にある発電所から電気が送られてくる際、電線等の抵抗により約30%の電力が失われています。これらのコストはすべて電気料金に上乗せされています。
自宅の屋根に設置したソーラー発電と組み合わせれば、送電ロスもほとんど問題になりません。
このように、リチュウムイオン・バッテリーの進歩とコストダウンと、それによって新たに登場したバッテリー・ストーレージ・サービスは、従来型の電力会社の存在を根底から揺さぶりはじめているのです。
2、EV
2013年、米モーター・トレンド誌が選んだその年のベスト・カーとしてTesla Model Sが選ばれました。EVという枠に限定したものではなく、その年に登場したあらゆる車の中からModel Sが選ばれたのです。
つまり、トップ・クラスのEVの性能はガソリン・エンジンを積んだ高性能車を凌駕するレベルに達しています。
問題となるのは価格で、最下位グレードのModel S 75でも米本国価格で$69,500(2017年現在)、最上位グレードの Model S P100D はフル装備で$160,000 という大変高価なクルマです。最上位グレードを日本で購入しようとすると約2千万円近い予算が必要です(Teslaは2017年より本国価格で約$35,000の「一般ユーザーにも手の届く」価格帯のModel 3の予約発売を開始しています)。
Seba氏は、以下のグラフで一般ユーザーにもEVが買いやすい価格にまで下がる時期の予測をしています。
Seba氏:「一般的米国人の新車購入価格の平均は約$33,000です。2020年にはEVの価格はそれを下回ります。ポルシェ911の性能がビュイック(アメリカのカローラ?)の値段で手に入るのです」
「内燃機関(Internal Combustion Engine、 略してICE)で走る車はエンジンやトランスミッションなどの可動部品が2,000以上あります。EVの可動部品は極端に少ない。よってメインテナンス・コストは比較にならないほど安く済みます」
■ EVがICE車を凌駕する理由は以下の4点+1
- エネルギー効率の良さ(ICE: 17.2% 、EV: 90~95%)
- 燃料代の安さ。EVはICE車の1/10
- 機械部品点数が少く維持費が安い
- 走行性能、特にゼロからの発進加速が圧倒的に優れている
充電インフラの拡充。Teslaや日産が展開するチャージ・ステーションの拡大。特にTeslaの展開しているチャージ・ステーション「Super Charger」は米国内止まらず、ヨーロッパや中国などを中心に世界の主要都市で急速に数を増やしています。2017年現在、米国のTeslaは自社の顧客に対してSuper Chargerの使用を無料としています。
*補足)イーロン・マスクは「エンジンを積まないEVは車体のフロント部分を緩衝部として使える。そのため、衝突の際の安全性は通常のICE車と比較すると圧倒的に高まっている」と言ってます。
3、自動運転車(Autonomous Vehicle)
■ センサー、車載用コンピューターのexpotentialな進歩がAutonomousの普及を支える
完全な自動運転は技術的には数年で可能になると言われています。問題はコストですが、センサー分野のexponentialな進歩は驚異的です。
上のグラフはAutonomousに使用されるセンサーの価格推移です。
それが16年後には、、、
2000年には部屋ほどの大きさだったコンピューターの倍以上の性能のものが、今では片手で持てるほどの大きさになっています。さらに値段は100万分の1にまで低下しました。
さらに2015年、カリフォルニアの天才ハッカーGeorge Hotz氏が、後付けのAutonomousキットを999ドルで発売する、という衝撃的な発表をしました。
George Hotz本人が解説する後付けによる自動運転の動画
注)残念ながらこのビジネスはローンチを前に米国政府から販売の差し止めを命ぜられました。裁判で消耗するのを嫌ったHotz氏は自身の開発したプログラム「open pilot」を全てオープン・ソースとして2016年12月にネット上に無料公開しました。
コスト的にも、完全なAutonomousが普及する下地はすでに出来上がっていると言えるでしょう。
■ Autonomousがもたらすビジネス・モデルとは?
では、そんなAutonomousがもたらすビジネス・モデルは世の中にどんな変化をもたらすのでしょうか?
その前に、すでに実現されているビジネス事例を2つ見てみましょう。
カー・シェアとライド・シェア。前者はレンタカーの発展形として、後者はタクシーやバズに代わる公共交通手段として米国では広がりを見せています。
また、自家用車を保有する際のコストに注目すると、、、
平均購入価格が $31,000もの資産なのに、その96%を駐車場で過ごす時間に費やしています!
ここには大きなDisruptionの下地があります。
次にSeba氏が示したのは、ウーバーの2015年の発表。
注)2017年現在、ウーバーはサンフランシスコ、ピッツバーグなどでAutonomousサービスの試験運用を実施中です。
Autonomousのライド・シェアが格安で使えるなら、自家用車を保有する必然性はなくなります。
大手自動車メーカーもAutonomousのカー・シェア・ビジネスへの参入を表明しています。
Seba氏;「これらのサービスと自家用車を保有する際のコストを比較して車を持たない人の数は爆発的に増えるでしょう。Autonomousによるカー・シェア、ライド・シェアの台頭で自家用車保有率の8割が消滅すると思われます。そして2030年には全ての車はEVかつAutonomousに取って代わられるでしょう」
「当然駐車場は不要になり、特に地価の高い都市部における都市計画の再構築のチャンスが訪れます」
「そうなったとき、私たちはどんな都市を望むのでしょう? 公園のようなパブリック・スペースを増やすのか。それともショッピング・モールばかりの商業施設で埋め尽くすのか?」
4、ソーラー
■ ソラー・パネルの価格低下
ソーラー・パネル(photovoltaic、またはPV)はテクノロジーです。ここでもexponentialな進化が起きており、価格は1970年との比較で1/200にまで低価格化が進んでいます。
また、PV装着率は2年で倍の増加を見せています。
つまり、理屈の上では14年後(2016年の講演時から)には世界の全ての電力はソーラーで賄われる計算となります。
でも本当にそんな世の中が到来するのでしょうか?
下のグラフは伝統的なエネルギーの価格推移を表したものです。
1970年以来、全てのエネルギー価格は右肩上がりを示しています。
従来型のエネルギーとの価格比較を見てみます。
ソーラー発電と比較すると石油は2,110倍ですが、これは1バーレル$30での計算です(2017年11月現在WTIは約$57)。
「忘れてはならないのはソーラー・パネルはテクノロジーであってエネルギーではありません。exponential的な勢いで低価格化が進むということです」
これに加え、米国ではソーラー・パネルのリース業が盛んになってきており、顧客はお金を払うことなく自宅の屋根にパネルを設置できます。新たなビジネス・モデルの台頭です。
■ Grid Parity
ドイツ銀行の試算では2017年時点では、すでに世界の8割の場所でソーラー発電の価格が、伝統的な電力会社の発電所から送電される電気より安くなることを示しています。
しかしSeba氏は「Grid Parity」は通過点に過ぎないと考えます。
「世界のどの地域であろうと、屋根の上のソーラー・パネルが発電する電気が電力会社の送電費より安くなった時が分岐点です」
従来型の発電所(Centralized Generation)は、大掛かりな設備の維持に加え、送電のコストから逃れられません。発電所で作り出された電気は送電の際に30%も失われます。
「この分岐点に達した瞬間、従来の発電所を運営する電力会社は、例えコスト0で発電しても市場競争力を失います」
「思い返してください、あらゆるテクノロジーは分岐点を迎えた瞬間、Sカーブを描いた急激な増加が起きるのです」
「私はこの分岐点を<God Parity>と呼んでいます」
Seba氏:「God Parityの到来は2020年と予想してます。Clean Disruptionは、今まさに起きつつあるのです」
以上
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The outcome of the Clean Disruption is that by 2030
• All new vehicles will be electric.
• All new vehicles will be autonomous (self-driving).
• The Internal Combustion Engine will be obsolete
• The Oil industry will collapse • Coal, natural gas and nuclear will be obsolete
• 80+ per cent of parking spaces will be obsolete. • Individual car ownership will be obsolete.
• 95% of miles will be on-demand autonomous and electric (AEV), a new model called Transport-As-A-Service (TaaS)
• All new energy will be provided by solar (and wind) Clean Disruption is a technology disruption. Just like digital cameras disrupted film and the web disrupted publishing, Clean Disruption is inevitable and it will be swift.
今回は異例に長い紹介になってしまったことをお詫びいたします。Tony Seba氏の講演「Clean Disruption」は、その内容を正確にお伝えする価値があるものと考え、ほぼ全編を紹介させていただきました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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